『Thanks ! 』


  言葉なんて必要ない。
  そばにいるだけで……それだけで互いの考えていることはいつも、理解し合うことができるから…──




  さり気ない気遣いに守られている。
  心地よい、空気のような干渉が感じられた瞬間には知らず知らずのうちにフッ、と顔が綻んでしまう。
  いつも、そうだ。
  仲間たちと一緒になって食事にありつこうとしたところでゾロは、サンジに肩を掴まれた。
「お前は向こうだ」
  今、まさに座ろうとしていたところにチョッパーを座らせたサンジはにやりと口元を歪め、ゾロを見つめる。ムッとして言い返そうとするよりも早く、サンジは言葉を続けた。
「ほれ、さっさと座った、座った。腹が減ってるんだろう?」
  追い立てられるようにして席を移動したゾロの目の前に、すっ、と皿が出された。水仕事でカサカサになったサンジの手が、色とりどりに料理が盛りつけられた皿を並べていく。
  食べ始めてすぐに、ゾロは気付いた。
  いつも窮屈な思いをして食べていた食事の時間が、今日はやけに悠々としているということに。
  左側の腕の窮屈さがないことに気付いたゾロは、手を止めてしばらく考えてからちらりとサンジを見遣った。
「あン? 何か文句でもあるのか?」
  ゾロの視線に気付いたサンジが、殺気立った眼差しで睨み付けてくる。
「サンジ、肉くれ、肉!」
  テーブルの反対側でルフィがフォークをカチャカチャと鳴らしながら次の皿を待っているのを一睨みするため、サンジはゾロから視線を逸らした。



  キッチンの片付けもあらかた終わったところに、ゾロがふらりとやってきた。
  おおかたまた酒瓶でも漁りに来たのだろうとサンジが振り返ろうとすると、後ろからふわりと抱きしめられた。
「……何だよ、どうかしたのか?」
  サンジの胸のあたりでぎゅっ、と組んだゾロの手は分厚くてごつごつと節くれ立っていて、あたたかい。サンジはその手を片手で軽くポン、ポン、とした。
「……お前……いつ、気付いたんだ」
  ゾロは、サンジの色白のうなじに鼻先を埋めて尋ねる。
「晩飯の時…──」
  言いかけたゾロの手に自分の手を優しく絡ませて、サンジは返した。
「前から、左側に誰かがいると食べにくそうにしていただろう? お前が左利きだってことを、このサンジ様はとっくにお見通しだったんだよ」
  自慢気なサンジの声に、ゾロは小さく苦笑した。
  誰にも気付かれていないと思っていた自分だけの秘密を、サンジが気付いているとは思いもしなかった。
  ゾロが左利きだったのは子供の頃のことだ。別に困ることもなかったが、右利きに直した。右利きのほうが、何かと便利だったからだ。
  サンジの柔らかな金髪に唇を押し当て、ゾロは呟いた。
「サンキュ」



「別に……言われなくても気付くだろう」
  決まり悪そうにサンジが言う。
「だけど俺は、気付いたのがお前で嬉しかったぜ」
  そう言いながらゾロは、サンジのシャツの裾の下に手を差し込んでいく。
  その手を軽くつねり上げ、サンジは満足そうに微笑んだ。
「そう言ってもらえると光栄至極」
  と、サンジはゾロの腕の中でもぞもぞと身体を動かし、ぐるりと向き合う形になった。
  同じ背丈の二人だったが、片や痩身、片や筋肉質と体躯差がある。
  サンジはまっすぐにゾロの目を覗き込むと、唇を合わせていく。
  ゆっくりと二人の唇は重なった。
  それからしばらくのあいだ二人は、そのまま唇を合わせていた。



  言葉なんて必要ない。
  そばにいるだけで、互いのことはすぐ気付くはずだから。
  すぐ近くにいる、それだけで、相手の考えていることが理解できるはずだから。
  唇を離すと、ゾロの唇の端に涎の滴が転がっていた。
  サンジはもう一度、軽くゾロの唇を舐めた。ペロリと舌を出し、掠め取るようにゾロの唇を舐めると、ふんわりと汗のかおりがした。
  ゾロのにおいだ。
「せっかく気がついたんだから、何か褒美をくれよ」
  サンジが言うと、ゾロはにや、と笑った。
「そうくると思ってた」
  シャツの下のゾロの手がゆっくりとサンジの肌を這い回り始める。
「褒美をやるから、あんまり声出すなよ」
  そう言われて、サンジはこくりと頷いた。
  ゾロの肩にしがみついたサンジがじっとされるがままになっているのは、互いにこうなることを望んでいるからだ。
「特別優しくしてやるよ」
  と、低く掠れた声でゾロが言う。サンジが、日常の些細なことに気付いてくれたことに感謝して。
「ああ、そう願いたいものだな」
  返しながらサンジは、ゾロの背に腕を回した。
  ぎゅっ、と抱きしめると互いのことが理解し合えるような気がした、そんな穏やかな夜のことだった──






END
(H15.9.16)



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