『キスの味 1』



  むせかえるような青臭いにおいが、その瞬間、サンジの口の中いっぱいに広がった。
  えぐみのあるドロリとしたものが口内を満たし、喉の奥へと流れ込んでいく。
「アホか、お前ぇは」
  柔らかなサンジの金髪を鷲掴みにして、ゾロが低く呻いた。
「そんな不味いモン飲んで嬉しいのかよ、ああ?」
「……うっせぇ」
  ぐい、と顔を上げ、サンジは言い返した。飲みきれなかったものが口の端からたらりと零れ、慌てて手の甲でごしごしとこすり取る。
「これぐらいしねぇとお前、俺としよう、って気にならないだろ」
  断定的にサンジがそう言うと、ゾロはにやりと口の端をつり上げて笑った。
「別に、お前としたくない、ってわけじゃねぇんだぜ?」
  ゾロがそう返すと、サンジは鼻を鳴らしてギロリと睨み付けた。
  サンジがまるきりゾロの言葉を信じていないような素振りの眼差しでいるのも、当然といえば当然かもしれない。



  たいていの場合、ゾロは何もしなかった。心の繋がりも、身体の繋がりもどちらも手に入れた今、たまにはゾロのほうから性的な行為をしかけてきてもよさそうなものだったが、彼は一度としてサンジに手を出そうとはしたことはなかった。かといって、ゾロが不能だったり不感症だったりというわけでもないのだ。ちゃんと感じているし、サンジを感じさせることもできる。それなのに、ゾロのほうからは身体を求めてくることはおろか、キスすらもしかけてはこなかった。
  最初の頃は恥ずかしがっているのかとも思っていたのだが、そういうわけでもないらしい。何度か身体を重ねるうちにサンジのほうで、気付いた──ゾロが、筋肉を鍛えることほどにはセックスに興味をもっていないということに。要するに、淡泊なのだ、ゾロは。それとも、もしかしたら昼間、トレーニングで余分な体力を使い果たすために欲求不満を覚えないのかもしれない。
  どちらにしても、サンジのほうからどれほど積極的にしかけていったとしてもゾロは滅多にセックスに溺れるようなことはなかったし、どうかするとキス一つで誤魔化され、抱いてもらえないこともしばしばだった。
  何にしろ、サンジは常に欲求不満だったし、今もそうだ。
  自分の誕生日にキスの一つももらえず、危うく一人で悶々とした夜を過ごすことになりそうだったのだ。
  先端に残った精液を綺麗に舐め取ってしまうとサンジは起きあがり、ゾロの上にのしかかっていく。
  サンジはペロリと口の端を舐めた。
「覚悟しやがれ」



  押し倒したゾロの躰の上に、サンジは馬乗りになった。
  筋肉質なゾロの肉体は健康的で若々しく、牡のにおいに満ちている。
  手始めに喉の窪みのところをペロリと舌でなぞると、サンジはそのままゆっくりとゾロの肌を辿って下腹部へとおりていく。
  誕生日を格納庫で過ごすことについては、少し前からサンジの予定に入っていた。しかし、ゾロのほうはというとあっさりとしたもので、誕生日のほんの数時間さえも二人きりで過ごすことを考えていなかったのだ。
  夕食は、サンジ自身の誕生パーティも兼ねていつもより豪華な食事がずらりと並んだ。自分で作って自分で食べるというのもどうかと思ったが、仲間たちが喜ぶのでとっておきのケーキも作ってみた。それからロビンに軽いベーゼを受け、ナミからは可愛くラッピングされた小箱をもらった。チョッパーは後片づけの皿洗いを手伝ってくれたし、ウソップは明日の掃除当番をかわると約束してくれた。ルフィですら、今夜の不寝番をかわると宣言してくれたのだ。
  それなのに、恋人だと思っていた男は……ゾロは、サンジへのプレゼントも用意しておらず、それだけならまだしも、一緒に過ごしてくれる様子もこれっぽっちも見受けられない。さすがのサンジも苛々が募り、ゾロを格納庫へ連れこむと、皆が寝静まるのを見計らって毛布を敷いただけの床に押し倒したのだった。
「どう料理してくれるんだ?」
  にやりと笑って、ゾロが尋ねる。
  この男の、こういった余裕のある表情がサンジは好きだ。牡のにおいをプンプンとさせて、今にも獲物に飛びかかろうとしている、危うい獣の眼差しを見ていると、それだけで腹の底のほうが熱くなってくる──ああ、自分も牡なのだと、そう思える瞬間がやってくる。牡のにおいをまき散らすゾロに呼応する自分が、そこにはいる。
「うっせぇ。俺サマの誕生日をシカトしようとしたてめぇなんざ、いつもと同じで充分なんだよ」
  そう言い放つとサンジは、つい今し方射精したばかりのゾロのペニスをぎゅっ、と握り締めた。



  サンジの手が上下すると、手の中のゾロも反応を返してくる。
  舌で形をなぞるようにして、玉の裏から竿の先端へと舐め上げると、ヒクヒクと動くのが感じられる。浮き上がった血管が脈打つのを見て、もう一度ペロリとその部分を舐めてからサンジは顔を上げた。
「なあ、ほぐしてくれよ」
  そう言うとサンジは、すぐ傍に脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから軟膏を取り出す。
  小さなケースをゾロへ投げて渡した。
「あっち向けよ」
  言われて、サンジは尻をゾロの顔のほうへと向け、跨り直した。
「……っ…あ……」
  ぐい、とゾロの手がサンジの尻を掴んだ。気分を盛り上げるために形だけでも抵抗してみようかと思う間もなく、ゾロの指が軟膏を塗り込めていく。節くれ立った指がサンジの穴の縁にかかり、縁の周囲から内部へと向かってゆっくりと沈み込んでいく。
「んっ……」
  身体の内側から、ぞわりぞわりと快感が沸き上がってくる。サンジは目の前のゾロのペニスにしゃぶりつくと、口全体を使って扱きはじめた。沸き上がってくる快感を遮断しようと舌を動かすと、ゾロの低く掠れた声が聞こえてきた。






To be continued
(H16.2.16)



ZS ROOM