『Leisure 1』



  うっすらと目を開けると夕方の涼しげな風が頬をなぶっていくのが感じられた。
  何度か目を瞬かせるとサンジは、そっと上体を起こした。
  ゾロはまだ、隣で眠っている。疲れたのか、口元をぎゅっ、と一文字に引き結び、眉間に皺を寄せている。じっくりとその無防備な顔を眺めてからサンジは、ゾロの鼻の頭を指先で軽く弾いた。
「…がっ……?」
  手で払いのけるような仕草をするとゾロは、ごろりと寝返りを打った。
  この男はまだ寝るつもりなのかと、サンジは苦笑する。午後も遅くなってから、二人はホテルのベッドに潜り込んだ。昼寝前の軽い運動の後、惰眠を貪った。ここは常夏の島だから、時間の過ぎるのがひどく遅く感じられる。もしかしたらそれは、サンジがそう思いこんでいるだけのことなのかもしれなかったが。
  うつぶせになったゾロの背中に、サンジは唇を這わせた。
  肉付きのよいゾロの背中は、傷ひとつない。肩のあたりの筋肉が、規則正しい呼吸音と共に上下して、蠢いている。
  肩胛骨のすぐわきをサンジは強く吸い上げた。所有の印をひとつだけ、ゾロの身体に刻み込む。この印が何日かすれば消えてしまうことはわかっていたが、それでも、つけずにはいられなかった。
  仲間たちの目の届かないこの場所で、ゾロが……隣で眠るこの男が、自分だけのものだと主張してみたかったのだ。
  唇をはなすと、ちゅ、と湿った音がした。
  目に鮮やかな朱色の跡に満足して、サンジは、自分がたった今つけたその跡をペロリと舌で舐めた。
  開け放った窓から夕方の風が流れ込んでくる。
  潮の香りと、太陽の残り香に、サンジの身体の奥がちりちりと燻り出す。
  早く起きろと、サンジはゾロの尻をやんわりとつねった。



  リゾー島と呼ばれるその島は、常夏の島だった。
  からりと晴れ渡る青い空、アクアブルーの透き通る水、それにきめの細かい白い砂。
  古くから観光地として栄えるその島には、物資補給のために昨日、寄港したばかりだ。特になにがしかの目的があったわけでもなく、たまたまふらりと立ち寄っただけの島にしては、なかなかに楽しめそうな島だとロビンは言っていた。三日間だけの海賊休業期間だと、ナミは言った。それは日頃、海の上で生活している自分たちへのご褒美でもあった。
  港につくと早速、仲間たちはそれぞれが思うところへと散っていった。
  サンジは、ゾロと二人で島の反対側にあるホテルに泊まることにした。仲間たちは、港からすぐのところにあるホテルに部屋を取っているようだ。にぎやかなショッピングモールが目の前に広がる港近くのホテルと違って、サンジの選んだホテルはひっそりとした山裾に建つ、どちらかというと旅籠のようなところだった。
  二日間、二人きり──そう考えると、サンジの顔はついつい緩みがちになってしまう。
  恋人同士の二人だったが、海の上では思うように抱き合うこともできず、日々の忙しさからくるのか、ついつい喧嘩三昧の日々を送っていた。誰の目も届かないところでこっそりと抱き合う時間は皆無に等しく、セックスに関しては淡泊なように思われる質のゾロはともかく、いつもサンジは苛立っていた。
  窓の外を見ると、カモメの群が崖の上で旋回しているのが見える。山沿いとは言うものの、このホテルも海に面して建てられていた。たまたまサンジたちのとった部屋が山沿いだったというだけで、別の部屋からは閑静な海が眺めることが出来るはずだ。もっとも、ナミたちの泊まるホテルに比べるとずっと質素なホテルだったが。



  ゾロが目を覚ますのを待って、サンジは海岸沿いの散策に出かけた。
  人気のない浜辺は、おそらくナミたちが泊まっているホテルよりも景観はよくないだろうが、それでもサンジは満足していた。何と言っても、ゾロと二人きりなのだから。
  二人は、水平線の彼方に太陽の翳りが映る頃まで海岸にいた。言葉はほとんど交わさず、ゆったりとした二人だけの時間をそれぞれ楽しんでいるようだった。
  それからゆっくりとした足取りで、ホテルのほうへともと来た道を戻っていった。
  陽はすっかり落ちて、生暖かい夕凪が肌にまとわりついてくる。不快感はなかった。海の上での生活に慣れた二人には、潮の香りのないことのほうが奇妙に思えるかもしれない。きっと、メリー号のクルーたちだってそうだろう。
  その後、ホテルのすぐ近くにあった酒場でのんびりとした夕飯をとり、部屋に戻った。
  何の変哲もない普通の日常に、気持ちまでもが穏やかになってくる。胃袋も満たされた今は、特に。
  二人だけなのをいいことに、サンジは今にも噛みつきそうな勢いで唇を合わせた。舌先を唇の隙間からちろちろとのぞかせ、ゾロを誘う。
「しようぜ」
  我ながら馬鹿なことを口走っているなと、サンジは思った。
  昼間、抱き合ったばかりでまたセックスをしようというのだから、ゾロが呆れるのも無理はない。緑色の短髪を抱きかかえ、しっかりと押さえ込んでサンジはキスを繰り返した。



「ん……ふっ……」
  ゆっくりと、ゾロの舌が蠢く。
  二人して互いに衣服を脱がし合い、床の上に転がった。
  部屋の灯りは薄暗かったが、相手の表情がわかる程度には明るかった。
  押さえ込まれるようにして、サンジは床に縫い止められている。ゾロの舌が、サンジの乳首を舐めあげる。ざらりとした舌の感触は小さな痛みと大きな快感をもたらし、サンジの身体はビクビクと震えた。
  シャワーを浴びていない身体からは汗のにおいがしている。ゾロは、ざりざりとサンジの乳首を舌全体を使って舐め、それから下半身へとおりていった。痩せてはいるが、しっかりと筋肉のついている腹をくだり、臍の脇を舌先で軽くつつく。その先の茂みを掻き分け、ペニスを口にくわえると、くぐもった汗と小水のにおいがゾロの鼻をついた。
「ぁ……」
  サンジの指がそろりと、ゾロの短髪を鷲掴みにする。
  フローリングの木の継ぎ目が背中に当たって痛かった。身体をずらそうとサンジが動くと、ゾロの口がさらにペニスを深くくわえ込んだ。
「ん、ぅんっ……」
  片膝を立て、サンジは上体を起こした。自分の股間に顔を埋め、陰茎を舌でなぞるゾロの目が、笑っている。上目がちにじっと目を見つめられ、サンジは頬がかっと熱くなるのを感じた。
  ペニスの先端からは、白濁した精液が溢れ出さんばかりになっていた。サンジが腰を引くと、ゾロの舌が先端を追いかける。ちろちろと舐められ、割れ目に舌を突き立てられるとそれだけでサンジの身体はカクカクと揺れる。そのうちに中途半端な愛撫に耐えられなくなったのか、サンジは力任せにゾロの頭を押さえつけた。
「舐めろよ」
  低く、掠れた声が甘くゾロの耳に響いた。






to be continued
(H16.6.12)



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