唇を合わせた瞬間、花の蜜のような甘ったるいかおりがした。唇が離れると彼は、もっと、と低く囁く。
女審神者は恥ずかしそうに顔を伏せた。
これまでただの一度として、接吻などしたこともなかったのだ。
「恥じらう姿も愛らしいな」
言いながら三日月宗近は女審神者の肩をそっと抱き寄せた。
「顔を見せてくれないか、主よ」
声をかけられ、女審神者は焦らすようにそろそろと顔をあげていく。 蠱惑的な瞳に見つめられたと思った途端、ふわりと抱き締められていた。
「初々しくていいな」
嬉しそうに宗近は呟く。
恥ずかしいから少し黙ってくれればいいのにと、女審神者は思った。こんなふうにいちいち言葉にされると、困ってしまう。
伏し目がちにうつむくと、女審神者は「言わないで」と小さく囁いた。
宗近は喉の奥でくくっ、と笑うと、彼女を抱き締める腕にさらに力をこめる。
「初物を口にすると寿命が延びると聞いたことがある。俺もその恩恵に預かりたいものだなあ」
初物とは、まさに女審神者のことだ。
男の手が彼女の肩をするりと撫で、背中を這い降りていく。優しい手つきに女審神者は戸惑いながらも背をしならせた。
「怖いか?」
耳元で尋ねられることさえも、彼女には恥ずかしく感じられた。
小さく頷くと女審神者は、まるで幼子のように宗近の腕にすがりついていく。
「…… そうかそうか、怖いのか」
納得したように宗近は呟くと、ふむ、と顎をしゃくる。
しばらく考えてから彼は、女審神者の体を褥の上にそっと横たえた。
「それでは、今宵は手を繋いで共に眠ろうかな」
ふっ、と微かな笑みを浮かべた宗近は、そう告げると女審神者の手に自らの指を絡めていった。
(2015.11.10)
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