小狐丸は、嗅覚も聴覚も獣並みによく利く。
少し強い陽射しに照らされたままうたた寝を続けていると、誰かが近付いてくる気配がした。軽やかな足音で、主だとすぐにわかった。
寝たふりをしたままの小狐丸は、縁側の隅で片方の眉をピクリと動かした。
主がすぐそばにいるのだと思うと、それだけで嬉しくなってくる。もしも自分に尻尾があれば、子犬のように千切れんばかりに尾を振っていたかもしれない。
「おや。小狐丸は昼寝中のようですな」
一期一振の声が聞こえる。
「こんなにいい陽気なんだもの、うとうとしたくなるのもわかるような気がするわ」
主はそう言うと、小狐丸のすぐそばに腰を下ろした。いったんは正座をしたものの、すぐに足を崩して横座りになる。
うっすらと片目を開けた小狐丸の目の前に、ほっそりとした女審神者の白い足首が見えている。
すぐに主の手がおりてきて、ふさふさとした小狐丸の髪を梳き始めた。優しい手つきに、小狐丸は眠気を誘われる。
「このまま寝かせておくのですか?」
気遣わしげな一期一振の言葉に、主はそっと頷いた。
「午前中の出陣で疲れているみたいだから、そっとしておいてあげましょう」
言いながらも主の手は、小狐丸の髪を梳いている。
優しい指使いが心地いい。
小狐丸はいつしか眠り込んでいた。
穏やかな女審神者の声と、髪を梳く指が気持ちよくて、久しぶりに深く眠ってしまったように思う。 だが、悪くはなかった。
こんなふうに主に全てを委ねきって眠るのも、たまにはいいものだ。
うたた寝をしながら小狐丸はそんなふうに、頭の隅で考えた。
(2015.10.3)
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