性急に両足を抱えあげられたかと思うと、下穿きをずり下げることすらもどかしいのか、着衣のまま強引に身体を繋がれた。
正面から真っ直ぐに見据える眼差しはいつになく険しく、眉間には深い皺が寄っている。
「……主。ある、じ……」
掠れた声からは、目の前の男が追い詰められて切羽詰まった状態になっていることが容易に感じられた。
「一期……」
名前を呼ぶと、男はさらに主の蜜壺深くに男根を捩じ込んでくる。
「ひっ、ぁ……」
喉をひきつらせて声をあげながらも女審神者は男の腰に足を絡み付かせた。力強い律動に揺さぶられ、とめどなく矯声が口の端から溢れる。
瞳が潤み、目の前の端正な男の顔が滲んで見える。
「一期一振……」
掠れた声で名を呼ぶと、男は苦しそうに低く呻いた。
「主……」
はだけた着物を一期一振が乱暴に左右に大きく開くと、女審神者の肌が露になった。白くやわらかな肌と、張りのあるふっくらとした乳房が男の目の前に晒される。片方の乳房には、消えかかった微かな痕がまだうっすらとその存在を主張していた。
「……見ないで」
少し前に、一期一振がつけた印だ。遠征続きの合間に、会えない日も自分のことを忘れないようにと痕を残された。
加瀬こんなふうに痕が残るような乱暴な抱かれ方ではあったが、嫌ではなかった。それだけ求められているのだと思うと、知らず知らずのうちに嬉しく思えてくる。
女審神者は恥ずかしそうに目を伏せた。露になった乳房を隠すように着物の襟を手繰り寄せようとする。
その手を一期一振の手が優しく包み込み、指を絡めてきた。
「主……隠さないで、すべて私に見せてください」
言いながらも一期一振は、緩かな動きで腰を揺らしている。
「あっ……あ……」
女審神者の長い黒髪が乱れて、畳の上に暗く細い川のような流れを作る。
「……ダメ」
啜り泣きながら女審神者は自らも腰を振った。
「ダメ、イッちゃう……」
男のなしなやかな背中に両手でしっかりと捕まると、女審神者はあ、あ、とか細い悲鳴をあげた。
紅を引いた唇の隙間からは、真っ赤な舌がちらちらと見えている。
一期一振は一瞬、動きを止めた。それからよりいっそう激しく女の蜜壺を突き上げ始める。
はあはあと息を荒げて、まるで雄のように女審神者を求める一期一振に、いいようのないほどの愛しさが込み上げてきた。
「好き……好きよ、一期。一期……」
掠れる声で何度も男の名を呼ぶと、よりいっそう深いところを突き上げられ、女審神者は呆気なく高みへと駆け昇っていく。
ヒッ、と喉を鳴らした女審神者は力一杯に男の肢体にしがみついた。一期一振はまだ大きく腰を揺さぶっている。最後にぐい、と突き入れると同時にドロリとした熱い白濁を放った。
女審神者の子宮口まで届きそうな勢いで、とぷとぷと白濁が腹の中を満たしていく。
女審神者は大きく全身を震わせながら、一期一振から体を離した。
「あっ、ぁ……」
膣からずるりと一期一振の陰茎が抜け出すのにも、感じてしまう。ふるっともう一度体を震わせてから女審神者はぐったりと寝具の上にうつ伏せになった。
女審神者から少し離れたところで一期一振も同じようにごろりと転がる。男の汗に濡れた裸体が美しかった。
女審神者は手を伸ばすと一期一振の腕に触れてみた。均整のとれた身体のそこここに、適度な筋肉がついている。さっき抱き締めた背中もそうだ。一期一振が腰を打ち付けるたびに、背中の筋肉が隆起していた。
「……貴女に再会できた嬉しさから、少々無茶をやらかしてしまったようですな」
息が落ち着いてくると一期一振はそう言って、女審神者に謝罪をしてくる。そんなこと、自分はこれっぽっちも気にしていないのにと女審神者は思う。
一期一振と会えて、自分も嬉しかった。彼を遠征へと送り出したのは他の誰でもない自分だったが、やはり心の底では寂しさを感じていた。できることなら近侍としてずっとそばにいてほしいと思っているが、そういうわけにもいかないだろう。
「いいえ。あなたが遠征から戻ってきてくれて、私も嬉しかった」
こんなふうに激しく抱かれることを、幾度となく夢に見た。今、その願いが叶い、女審神者は幸せでならなかった。
一期一振は艶やかな笑みを浮かべると、女審神者の指に自身の指を絡め、きゅっと軽く握ってくる。
「それはよかった」
一期一振はそう返した。
骨ばった指がするり、と女審神者の指の間をなぞっていく。官能的なその指の動きに、女審神者は喘ぐように小さく息を吐き出した。気持ちいい。もっと、触れて欲しい。指だけでなく、身体じゅうに触れて欲しい。
絡めた指にわずかに力を込めて握り返してから女審神者は、おもむろに身を起こした。
男の腹の上に跨がると、尻のあたりに当たる男の陰茎がヒクン、と震えて固さを増すのが感じられる。だが、嫌ではない。むしろ自分が目の前の男に求められているのだと思えて、嬉しいぐらいだ。
「まだもう少し……繋がっていたいのです」
もっと、深いところまで触れて欲しい。この男になら、すべてを暴かれ、曝け出しても構わないと、そう彼女は思っている。
一期一振はただ黙って熱っぽい眼差しで女審神者を見つめ返しただけだった。だが、愛し合う二人にはそれだけで充分だった。
(2016.4.11)
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