眠りにつくまでは2

  枕元の灯りの中、ぼんやりと玉藻の顔が見えている。
  片手で陽美の竿を扱きながら玉藻は、もう片方の手を尻の間に潜り込ませてきた。長くて綺麗なあの指が、陽美の尻の狭間をまさぐっている。
「んっ……」
  先走りで濡れた指が陽美の窄まった部分を探り当て、するりと先のほうを潜り込ませてくる。クチ、と湿った音がして、同時に陽美は体に感じる異物感に眉を潜めた。
「気持ち悪い?」
  少し困ったような顔をして玉藻が尋ねてくる。
「はい……いえ、あの……はい、少しだけ……」
  くい、くい、と内壁を確かめながら差し込まれた指が、陽美の中を探っている。
「ごめんね。丁寧にしないと、陽美くんが辛くなるから」
  申し訳なさそうに言われて、陽美は首を横に振る。
  男同士のセックスで、受け入れる側の自分に負担が大きいことは承知の上だった。それでも玉藻と体を繋げたい。ひとつになりたいと、陽美自身が望んでいるのだ。
「大丈夫です」
  そう返すと陽美は微笑んだ。
  これで玉藻が安心してくれるのなら、異物感ぐらいどうということはない。それに、慣れさえすれば、この異物感をやり過ごすことだってできるはずだ。
  体の中に潜り込んだ指が内壁を優しくこじ開けようとする。女性のように自分から濡れてくるわけではなかったから、時々玉藻が窄まったところに唾液を垂らして濡らしてくれる。その光景がやけにいやらしく見えて、恥ずかしい。
「玉藻さ……も、いいから……」
  恥ずかしいよりも、痛いほうがまだマシだ。
  手を伸ばして玉藻の髪をくい、と引っ張ると、「まだダメだよ」とやんわり押し返された。
  舌でざりざりと窄まった襞の間を舐められ、指で内部をぐりぐりと押し広げられ、少しずつ陽美の体が変化してくる。
  体温があがって暑いのだとばかり思っていたが、どうもそれだけではないようだ。
  クチクチとリズミカルな音が続き、少しずつ陽美の中がムズムズとし始める。最初に感じた異物感が薄れてくると、今度は内壁に当たる指の角度が気になりだす。軽く引っ掻くようにして内壁を擦られると、それに連動するように前がムズムズとなる。
「ん……ぁ……」
  口元に拳を押し当てて声を洩らすと、玉藻が嬉しそうに呟いた。
「……ああ、やっとよくなってきたんだね、陽美くん」
  そう言われればそうかもしれない。
  ふと見ると自分の足の間で勃ち上がった性器は張り詰めてドロドロになっていた。今も先走りをトロトロと零しながら、微かに震えている。
「ぁ……」
  枕元の灯りだけでは細かい表情までは見えないだろう。自分が真っ赤になっているのはわかっていたが、おそらく玉藻には、そこまでは……そう思っていたら、不意に玉藻が微かに声をあげて笑った。
「陽美くん、顔が真っ赤だよ。恥ずかしい?」
  尋ねながらも玉藻は指を中で動かしてくる。じわり、と陽美の背筋に快感がこみ上げてくる。
「う、そ……わ、わかります?」
  薄暗がりで、自分のほうからは玉藻の顔色まではわからない。だが、玉藻のほうからは見えるのだろうか? もしかしたら細かい表情までも、わかってしまうほどに?
  不安そうに見つめていると、玉藻はふっと口元を緩めた。
「僕、狐だからね。夜目が利くんだよ」
  そう言って茶目っ気たっぷりに笑いかけてくる。
  じゃあ……と、陽美は思った。暗がりであっても玉藻のほうからは自分の表情や、赤面しているのが丸わかりなのだ。細かな部分まではっきりと、彼には見えているのだ。
「え、そんな……困ります、オレ……」
  だったらどうしたらよかったのだろう。明るいままだと、恥ずかしい。だが暗がりでも見えると言われると、余計に恥ずかしい。どうしたら……と戸惑っていると、陽美の中に潜り込んでいた指がくい、と内壁を擦り上げた。今までより強い圧迫感のようなものに、陽美は咄嗟に声を洩らしていた。
「っ……あ!」
  ビクン、と膝が大きく揺れた。慌てて片足を立て膝にして玉藻の視線を避けようとする。
「陽美くんのココ、綺麗だねえ。淡いピンク色をしてて、今まで見たどんな色よりも綺麗だよ」
  中に入れた指をゆっくり大きく回しながら、玉藻がうっとりと呟いた。
「なっ……」
  身を起こして玉藻を押しのけようとしたが、遅かった。
  さっと頭を下ろした玉藻は、ピチャリと音を立てて陽美の窄まりに舌を這わせた。
  中を指でぐちゅぐちゅと掻き混ぜられ、外側の襞を舌で舐められて、陽美は大きく背を逸らしてシーツに沈み込む。
「んっ、ひ……あ、ぁ……」
  グチュ、グチュ、としばらく湿った音が続いたかと思うと、不意に玉藻が身を起こした。
「ね、陽美くん。僕も一緒に気持ちよくなりたいな」
  掠れて欲のこもった玉藻の声に、陽美はドキリとした。
  額にうっすらと汗を滲ませた玉藻の体からは、うっすらと麝香のような香りが漂っている。これが玉藻のにおいなのだろうか。
「玉藻、さ……」
  手を伸ばすと、玉藻の体が覆い被さってきた。
  頬と目尻と唇にキスをされた。



  玉藻の肌が、陽美の肌に触れている。
  どちらの肌もしっとりと汗が滲んでいたが、気持ち悪いとは思わなかった。
  キスを受けながら陽美は、自分の太股にあたる玉藻の高ぶりに気付いていた。硬くなって先端からは先走りを滴らせた、玉藻の欲望だ。華奢な自分のものとは違って一回りほど大きく逞しく思えるのは、彼が妖怪だからだろうか。
  唇が離れると陽美は、玉藻の股間へと視線を走らせた。視線に気付いた玉藻は苦笑した。
「今度は陽美くんが、僕を気持ちよくして。僕のと一緒にまとめて握って。下手でもいいから、して?」
  切実な眼差しで訴えられ、陽美はおずおずと手を伸ばした。
  自分の貧弱な性器と一緒に、玉藻の性器を併せて両手で握った。陽美が手を動かすと、窄まりの奥に潜り込んだ玉藻の指がそれにあわせてゆっくりと中を擦る。強弱をつけて扱くと、玉藻もまた同じように陽美の中を擦る。
  気持ちよくて、しだいに陽美の頭の中が玉藻でいっぱいになっていく。玉藻の指、玉藻のにおい、玉藻の汗……。
  いつの間にか陽美は声を上げていた。
  恥ずかしげもなく声を上げながら、玉藻のものと自分のものを両手で握って扱き続けた。
  顔や唇や首筋にたくさんのキスを受けながら、中を激しく擦られた。指だけでイかされるのかと思うとどうにも悔しいような恥ずかしいような複雑な気分がしたが、それ以上に気持ちよかった。
  心が満たされるような感じがして、玉藻と触れ合えることが幸せでならなかった。
「玉藻さん……っ!」
  爪先でシーツを蹴り上げ、もう片方の足を玉藻の腰に絡めた状態で陽美はイッた。
  白濁が玉藻の腹に飛び散り、さらに自分の腹にも飛び散る。少し遅れて玉藻も達した。ドロリとしたものに自分の腹が汚されていくのを見て陽美は、心地よい満足感と共にのろのろと目を閉じる。
「……陽美くん?」
  心配したような玉藻の声に答えようとして手を動かそうとしたが、それよりも早く唇を塞がれるのを陽美は感じた。
「ありがとう、陽美くん」
  穏やかな玉藻の声に、陽美はホッと息をついた。
  目を閉じたまま甘えるように玉藻の胸元に額をすり寄せていくと、体を抱きしめられた。
  まだもう少し、玉藻とこんなふうにイチャイチャしていたいと思う気持ちとは裏腹に、強い眠気に引き寄せられるようにして陽美は深い息を吐く。
「玉、藻……さ……」
  なにか言おうと思って口を開いたものの、それ以上の言葉は出てこなかった。



(2014.8.31)


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