年が明けると、寒さはいっそう厳しくなってきた。
これまでは帰宅した麦穂を迎えるのは寒々とした部屋だけだったが、最近は少し違う。
少し前に、下宿先の大家さんと交渉をして、二匹の猫を飼うことを許してもらった。
もともとが野良猫だったから毎日家の中でおとなしくしているというわけではなかったが、この寒さにはやはり参るのか、このところ部屋の中で二匹がゴロゴロしている姿しか見かけない。
黄色い毛並みのチックピーと、黒猫のマメ丸は、麦穂のベッドの上でたいてい眠っている。そうでない時はソーセージや小魚をもらって一生懸命食べたり、毛繕いをし合ったり、じゃれ合ったりしている。 二匹が来てから、麦穂は寂しさを感じることがなくなっていた。
高校生になり、一人暮らしをするようになって寂しさを感じていた。それまでは家族と一緒だったから、尚のことだ。
だからこの部屋に二匹が来てくれたことは、嬉しくてたまらない。
家に帰ると、誰かがいる。お帰りと言ってくれる。この猫たちのおかげで再びそういう生活に戻れたことを、麦穂は感謝している。
「ただいま」
ドアを開けて部屋に向かって声をかけると、チックピーがトタトタと走り寄ってくる。
まるで「お帰りなさい、ご主人様。おいしい獲物は狩れたかにゃ?」とでも尋ねられているような気がして、麦穂はクスクス笑いながらふさふさとした黄色い毛並みを撫でてやる。
もう一匹のマメ丸のほうは、ベッドの上でゴロンと四肢を広げて眠り込んでいる。最初の頃は警戒心の強い子猫だったが、いつの間にかこの部屋に慣れてしまったようで、最近では部屋の主である麦穂よりもふてぶてしい態度を取るようになっている。
「マメ丸も、ただいま。今日は半生のカリカリだよ」
学校の帰りに麦穂は、ペットショップで新しく出た半生タイプのキャットフードを買ってきた。
子猫たちは何でもよく食べたが、キャットフードに色んな味や硬さがあることに気付いているようだった。チックピーは好き嫌いなく食欲旺盛な子だったが、マメ丸は半生タイプのキャットフードとソーセージが好物らしい。
キッチンで猫用のトレーにキャットフードの用意をし始めた途端、耳ざといマメ丸は目を開け、つやつやとした黒い背中をしならせてベッドの上から飛び降りた。
「にゃ……」
あくまでも人間には媚びないぞといった態度で、しかし尻尾をゆらゆらと揺らめかせ、キャットフードのにおいが気になって仕方がないといった様子でマメ丸が麦穂の足元をぐるぐると回りだす。
「はいはい、すぐにあげるから」
チックピーとマメ丸のキャットフードを所定の位置に置いてやると、二匹は競うようにして食事を始めた。
夕飯後、麦穂は授業の課題や予習・復習に余念がない。
炬燵に入り、難しい顔をしてノートや教科書を見比べていると、足先をつつく感触がした。
布団を上げてちらりと中を覗いてみると、チックピーとマメ丸の二匹が思い思いの格好をして気持ちよさそうに眠っていた。
「本当、よく眠るなぁ……」
呟いて麦穂も、小さくあくびをする。
机の上をさっと片付けると、寝支度を整えて麦穂はベッドに入る。
その前に、ぐっすりと眠る二匹の子猫をベッドに入れてやることも忘れない。
「おやすみ。猫ちゃんたち」
そっと声をかけると、麦穂は目を閉じる。
枕元で眠る二匹がゴロゴロと喉を鳴らして返事をした。
(2015.1.12)
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