「ううー。目がゴロゴロするよぅ」
ぱしぱしと目をしばたたかせながらアルナがぐずる。
登校前の慌ただしい時間帯のことだ。
「なんだ、目にゴミでも入ったのかい?」
それまで自分の準備に没頭していた水無月がふと手を止めて、声をかけてくる。
「うん。そうみたい」
殊勝な態度で返すアルナは、父である水無月に純真だった幼い頃を思い起こさせた。
水無月はアルナのそばに立つと幼い頃の面影の残るやわらかなラインの顎の下に指をやった。くい、とアルナの顎を指で引き上げ、大きな潤んだ瞳の中を覗きこむ。
「睫毛がイタズラをしていたんだよ、きっと」
そう言って水無月は、もう一方の手で目尻をするりと拭ってやる。
「もう、痛くないだろう?」
耳元で低く囁かれ、アルナは少し恥ずかしそうに小さく頷いた。
(2015.2.28)
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