桜井とつつじのクリスマス

12/28の栽培少年ワンドロ【ノベル】に参加しました。
お題は【クリスマス】です。


  一人ぼっちで過ごすクリスマスが好きなわけではないけれど、友達のいないつつじは毎年この時期は少し寂しく思うことがある。
  唯一の親友である桜井は、付き合いでクリスマスパーティへ行っていない。
  だからつつじは自分の部屋で一人、過ごすしかない。
  夕食の時に家族とちらりと「今日はクリスマスだね」なんて会話も交わしたけれど。小さなショートケーキを食べはしたけれど。それ以上は特に何もなく、いつもと変わらない時間が過ぎていく。
  自室で軽く課題をやっつけて、それから雑誌をパラパラと眺めているうちに、時計の針は九時を少し回った。
  少し早いけれど、寝る用意でもするかと椅子から立ち上がった時に、手元のスマートフォンが着信を告げた。ピロピロとかわいらしい音がする。
「こんな時間になんだろ」
  怪訝そうに首を傾げながらもつばきは、スマートフォンを手に取った。
「もしもし?」
  先に口を開くと、「つばき、今、大丈夫?」と桜井が尋ねてくる。
  桜井以外に友達のいないつばきが、今日はクリスマスパーティに行かなかったことを知らないはすがないのに。
「うん、大丈夫だよ」
  たくさんの友達とパーティ会場で騒いできたらしい桜井の声は、少し掠れていた。
「今日ってさ、クリスマスだろ。プレゼント用意したから、受け取ってほしいんだけど」
  押しの強い桜井を見ていると、昔の可愛くて病弱だった頃があったなんてことが嘘みたいに思えてくる。今の彼は、自己主張をはっきりとする、生徒会長様だ。通園バスを追いかけたものの、転んで泣いていたあの小さかった桜井が、随分と成長したなとつつじは思う。
「うん。いいけど……」
「今、家の前だから、ちょっとだけ出てきて?」
  プレゼントを渡したらすぐ帰るからと言うものだから、つつじは慌てて玄関口へ飛び出していった。
  ドアを開けると、門扉の前には桜井が立っていた。
「寒かっただろ? ちょっとだけでも寄っていけば?」
  それとも、泊まっていく? と、笑いながらつつじは声をかけた。
  幼馴染だから、たまにはこういうこともある。昔からお泊り用品一式を互いの部屋に置いてあるのだから、急にお泊りになっても困ることはなかった。
「いいの?」
  尋ねる桜井の顔に、嬉しそうな笑みが広がっていく。
「いいよ。だって、寒いし……それに、ほら。雪だって降ってきた」
  つつじの言葉につられるようにして桜井が天を仰ぐと、ちょうど舞い落ちてきた雪の一粒がふわり、と額に止まり、じわりと溶けていく。
「本当だ」
  そう言った桜井の息が、白い。
「ほら、早く中に入らないと風邪ひくよ」
  そう言うとつつじは、桜井の腕を引いて家の中へと引きずり込んだ。



  風呂から上がってきた桜井に、つつじはペットボトルを手渡した。中身はスポーツドリンクだ。
「頭、よく乾かした? 風邪ひかないようにね」
  ついつい口やかましくなってしまうのは、病弱だった幼い頃の桜井をいまだに覚えているからだろうか。
「大丈夫だよ、ちゃんと乾かした、って」
  笑いながら桜井はスポーツドリンクをごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
  それから、「あっ」と思い出したように自分が手にしていた荷物へと視線を向ける。
「プレゼント、渡すの忘れてた」
  そう言って桜井は、小さな紙のボックスをそっと大切そうに抱えてつつじのほうへと差し出した。
「これ、手作りケーキ。つつじにプレゼントするために作ったんだ」
  つつじが嬉しい時や落ち込んだ時、何かあったら桜井はお菓子を作ってくれる。レパートリーは幅広く、中でもつつじはケーキ類が大好きだった。
「えっ、本当?」
  本当は、桜井の顔を見た時からケーキを持ってきただろうことに何となく気付いていた。去年も、その前も、桜井からのプレゼントは小さなホールケーキだった。二人でケーキを切り分けて、他愛のないことを喋りながらケーキを食べる。あたたかな紅茶は、つつじはミルクティにして、桜井はストレートで。
「今回はなんだろ」
  わくわくしながらつつじは、ボックスを開く。
  チョコケーキもいいけれど、イチゴショートも好きだ。レアチーズケーキ、スフレチーズケーキ、フルーツタルト、ロールケーキ……。
  今年は何だろうと中を覗き込むと、ティラミスだった。
「わ、あ……おいしそう!」
  声をあげて、桜井のほうを見る。
「今から、食べるよね?」
  首を傾げて尋ねると、桜井は嬉しそうに頷いた。
「うん。一緒に食べよう」
  つつじはいそいそとキッチンへと、紅茶の用意をしに行く。
  クリスマスはいつもより賑やかだけど、桜井がいたらもっと楽しい。友達がたくさんいて、ついさっきまでクリスマスパーティに参加していた桜井は、つつじのこともちゃんと気にかけてくれている。こんなにおいしいプレゼントまで持って、やってきてくれたのだから。
「今日がクリスマスでよかった」
  ふふっ、と小さく笑ってつつじは囁いた。
「なんで?」
  桜井が尋ねるのに、つつじは至極真面目な顔をして、こう返したのだった。
「だって、ティラミスはおいしいし、桜井は一緒だし。今日はいいことずくめだよ」



(2014.12.28)


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