「集合の時間に遅れるぞ」
目敏い長谷部に声をかけられた同田貫は、慌てて本丸の廊下を駆けていく。出陣の時刻はもうすぐだ。脇目も振らずに長い廊下を全力疾走し、角を曲がる。
不意に目の前が暗くなり、顔をあげた瞬間、突然現れたとおぼしき影にぶつかった。
瞬時に身構えたものの、そのまま影に弾き飛ばされる。
体の前面を突如現れた影にぶつけ、さらに弾き飛ばされた拍子に廊下の床で後頭部をしたたかにぶつけた。
「……っ、てぇ」
仰向けに転がった同田貫の上に、今しがたぶつかった影が倒れ込んでくる。
「わっ…来るな」
小さく叫んだものの影は勢いよく同田貫の上にのしかかってくる。
あっという間に二人して廊下の上で縺れ合い、同田貫は顔をしかめて倒れ込んできた相手をよく見ようとした。
御手杵だった。
同田貫のぱっかりと開いた股の間に倒れ込んだ御手杵は長い手足をばたつかせた。
「おい。俺の大事なところに顔を押し付けて、どうしようってんだ」
不機嫌を隠すことなく同田貫が低い声で尋ねる。
「ご、ごめん。主に呼ばれてて……」
もぞ、と御手杵は同田貫の太股に手を這わせながら、なんとか身を起こす。
主に呼ばれていたのなら仕方がないなと、同田貫は溜息をつく。
困ったような御手杵の顔がほんのり赤らんでいることは、不問にしてやることにした。
(2015.4.14)
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