雪の中に佇む男の姿を見かけて、同田貫は本丸へと急ぐ足をふと止めた。
純白の着物を身につけた男の華奢な様子は、今にも雪景色の中に溶け込んでしまうのではないかと思われて、声をかけるのが躊躇われる。
日頃はふざけた態度で仲間をからかうこともしばしばある男だったから、こんなふうにいつもと違う雰囲気を纏われると、困ってしまう。
同田貫が黙ってじっと男を凝視していると、不意に彼は数歩先の庭木へと手を伸ばした。
男の視線の先はおそらく、梅の蕾だ。
数日前に見かけた時にはまだ裸木だった梅の木がいつの間にやら蕾をつけていた。
鮮やかな梅の紅に、そしてたおやかな男の立ち姿に、目を奪われる。
思わず同田貫は口の中に込み上げてきた唾をごくりと喉を鳴らして嚥下していた。
焼けつくように体がカッと熱くなり、そのことに密かに驚いて、慌てて踵を返す。
長い廊下を大股に歩いて渡り、何とか同田貫は本丸に辿り着くことができた。
(2015.2.11)
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