執着

  押し倒されたのは、河原の草むらの上だった。体の下で押し潰されたよもぎの葉のにおいが鼻先をくすぐっていく。
  同田貫は顔をあげると、自分にのしかかる男の端正な顔を睨み付けた。
「お前……どういうつもりだ」
  圧し殺した低い唸り声に、鶴丸はニヤリと口の端を吊り上げて笑う。
  それだけで同田貫の背筋がゾクリとなった。
「別におかしなことではないだろう」
  低く艶のある鶴丸の声が、何故だか怖かった。
「変だろっ!」
  同田貫は声を荒げた。
  男である自分に、同じ男の鶴丸が懸想するなどといったことはあってはならないことだ。
  そんなことは……誰が許したとしても、同田貫自身が許さない。
  自分の体は、自分のものだ。いくら仲間とはいえ、鶴丸に体を好きに触れさせてやる謂れはどこにもない。
「おとなしくしていれば、怖い思いも痛い思いもせずにすむのに」
  どこか嬉しそうに鶴丸は告げた。
  何故、そんな楽しそうな顔をするのだろう。舌なめずりをして、獲物にとびかかる寸前の猛禽類のような顔をして、鶴丸は自分を見つめているのだろう。
  逃げたくても同田貫は、もうこれ以上は逃げることもできない。
  掴まってしまったら、そこで終わりなのだろうか。
  ちらりと見上げた鶴丸の目が、怖いほど真っ直ぐに同田貫を見下ろしてくる。
「お前を……離さない」
  硬い声でそう言うと、鶴丸は同田貫の唇に自身の唇を重ねてきた。



(2015.3.08)


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