はなびら

  チュウ、と音がした。
  肌の上のチリチリとした痛みに目を覚ますと、同田貫は眉間に深い皺を寄せた。
  見ると、同田貫の鎖骨のすぐ下のあたりの皮膚を鶴丸がきつく吸い上げているではないか。
「なっ……」
  咄嗟に拳を振り上げ、目の前の頭めがけて殴りつけようとしたが、それよりも素早く鶴丸はするりと同田貫の拳の下をすり抜けた。
「綺麗な桜の花びらがついたな」
  にやにやと口許にいやらしい笑みを浮かべて鶴丸が告げる。
「こんの、エロジジイ!」
  腹の底から怒鳴り付けると、勢いよく同田貫は飛び起きた。
  縁側で桜の花を眺めているうちに、ついうっかりとらうたた寝をしてしまったことが悔やまれてならない。
  起き上がった同田貫の体からはらはらと舞い落ちるのは桜の花びらだ。どうやら悪戯な風が、こんなところまで花びらを運んできたらしい。
「おや、こんなところにも桜の花びらが」
  からかうような鶴丸の声を無視すると、同田貫はくるりと踵を返す。
  ドタドタと足音も荒々しく、同田貫は手入れ部屋へと向かったのだった。



(2015.3.29)


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