色気

  これはいったい何の罰ゲームだと、同田貫は唇を噛み締めた。
  鶴丸がどこからか手に入れてきた女の下着を、どうして男の自分が身につけなければならないのだ。
  目の前の男を睨み付けると、意地の悪そうな笑みを口許に浮かべながら鶴丸は近付いてきた。
  手には真っ赤なブラジャーを握り締めている。
「さあ、つけてやろう。後ろを向いて」
  言いながらも鶴丸は、楽しそうにニヤニヤと笑っている。
  着ていたジャージを勢いよく脱ぎ捨てた同田貫は、不満そうにむくれたまま鶴丸に背を向けた。
  すぐに胸のあたりに赤い布があてがわれた。女の胸の形にふっくらと膨らんだブラジャーが同田貫の胸を覆う。
「これで、あんたは満足かよ?」
  拗ねた幼子のように頬をふくらませて同田貫が尋ねる。
  鶴丸はふむ、と頷き、腕組をしたままぐるりと同田貫の姿を眺め回した。
「色気がないな、相変わらず」
  しれっと言われて、とうとう同田貫の堪忍袋の緒が切れた。
「うるせぇ!そもそもあんたが言い出したことだろ!」
  地団駄を踏んで当たり散らしていると、いつの間にか鶴丸に背後から抱き締められていた。
「いやはや。その色気のないところが俺は気に入ってるんだがな」
  言いながら鶴丸は、そろりと手を胸のほうへと這わしてくる。
「ぐっ……」
  言われ慣れていることとはいえ、こうも色気がないと繰り返されたらやはり腹も立つ。
  言い淀んだ同田貫は足元にちらりと視線を馳せると、鶴丸の足を力一杯踏みつけてやる。
「さっさと外しやがれ、この珍妙な布切れを!」
  罵声を飛ばせば背後で鶴丸がくぐもった笑いを洩らす。それがいっそう同田貫の怒りを煽る。
「好いた相手に着物を贈るのは脱がすためというのは、今も昔も同じでな」
  鶴丸の指が、焦らすようにブラジャーのストラップにかかり、パチン、と弾く。
「脱がしてやったら、君はお礼に何を返してくれるんだ?」
  思わせ振りな手つきで背中のホックを何度もなぞられた。
  その間にもブラジャーのカップは同田貫の乳首に擦れ、よくわからない居心地の悪さを感じさせる。
「な……なんでも、する」
   同田貫は思わず口走っていた。
「なんでもする……なんでもやるから、さっさと外してくれよ!」
  声を張り上げると、鶴丸は宥めるように首の後ろに唇を押し付け、皮膚を吸い上げてきた。
  チュウ、と音がして、すぐに唇が離れていく。
「約束だぞ、何でもしてくれよ」
  そう言うと鶴丸は、同田貫の胸を覆っていた赤いブラジャーを手早く外してやったのだった。



(2015.4.12)


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