お仕置き

「素直でないたぬきにはお仕置きが必要だな」
  そう言うと鶴丸は、同田貫の腕を後ろ手に拘束した。馬の革をなめした拘束具が同田貫の腕に食い込み、ぎりぎりと締め上げる。
「……どういうことだよ、これは」
  憮然とした表情で同田貫が尋ね返すと、鶴丸はニヤリと笑った。
「お仕置きだと言っただろう」
  そう言うと鶴丸は、同田貫を連れて本丸の地下へと歩き出す。
  仲間たちの何人が知っているのかは不明だが、城の地下には拷問のために使う隠し部屋が用意されていた。
  同田貫がこの部屋の存在を知ったのは、少し前のことだ。
「はっ。あんたのお仕置きなんて、たかが知れてらぁ」
  鼻で笑って同田貫がそう言うと、鶴丸は「そうかな?」と勿体ぶって誤魔化した。
  長い階段をおりていくと、ひんやりとした湿気と淀んだ空気が頬を撫でていく。
  階段を下りきったところで、鶴丸が言った。
「さあ、驚け」



  扉を開ける瞬間に軋んだ嫌な音がした。
  扉の内側は薄暗く、すぐに鶴丸が蝋燭に灯をともした。
  訳のわからないものがずらりと並ぶ中、三角形の木枠が同田貫の目に留まる。
「なっ……」
  先日ここに連れ込まれた時にはなかったものが、部屋の中央に置かれていた。
「さて、お仕置きを始めようか」
  楽しそうに鶴丸が告げる。
  鶴丸は、同田貫の体をやや乱暴に前へと押しやった。
  よろけた同田貫の足が、木枠にぶつかる。
「これに跨がってもらおうかな、今日は」
  鶴丸はさらりとそう言うが早いか、同田貫が着ていたものを刀の切っ先で切り裂いた。
  三角形の木枠の鋭く尖った天頂部が、同田貫が跨るのを待ち構えている。
「なっ……嘘、だろう?」
  振り返って鶴丸の顔をまじまじと見るが、彼はすっかりそのつもりになっているようだ。
「辛くないように、丁子油を垂らしてやろう」
  懐から小さな油壺を取り出した鶴丸は、蓋を外すと木枠の頂点にたらたらと油を垂らした。ツンと鼻をつくようなにおいの中に、甘ったるい椿油のにおいが混じって、同田貫にもそれが感じられた。
「さあ、跨がるんだ」
  宥めるような優しい鶴丸の声にいざなわれ、同田貫は三角形の木枠に自ら進んで跨った。



(2015.4.14)


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