同田貫が遠征から戻ってくると、普段は賑やかな本丸がいつになく静かだった。昨日の合戦で傷を負った鶴丸が手入れ部屋に入っているからだと教えてくれたのは、第一部隊隊長の燭台切だ。
審神者への報告を終えた同田貫は、自室へ戻りがてら、手入れ部屋を覗いてみることにした。 長い廊下を渡って、手入れ部屋へと向かう。
本丸から離れた廊下続きの手入れ部屋の周辺は、静かだった。怪我人がゆっくり静養できるようにと人払いをしてあるからだろう。
足音を忍ばせ、同田貫は鶴丸のいる手入れ部屋へと歩を進める。
襖に手をかけ、わずかな隙間からそっと中を覗いてみると、布団に横になった鶴丸がつまらなさそうに天井を眺めてははあぁ、と深い溜め息をついている。
「……暇そうだな」
襖を開けて声をかけると、鶴丸は同田貫のほうへと視線を向けてきた。
「実際、暇なんだよ。手入れなんて、じっとしてるだけしかすることがないからな」
手入れ部屋にいることを同田貫に知られてしまったことが気まずいのか、苦笑しながら鶴丸はそう告げた。
同田貫だって、手入れのもどかしさを知っている。健康な時ならともかく、怪我を負った時の手入れは苛立ちと焦燥、それに後悔だとか憤りを再認識するための時間に他ならない気がして、あまり好きではない。
「いつまでだ?」
尋ねると、鶴丸は明日までだと返してくる。
「なあ……少しでも可哀想だと思うなら、慰めてくれよ」
布団の中から手を差し伸べ、鶴丸は言った。重傷を負ったと聞いていたから随分と萎れているのではないかと思ったが、自分よりも年上だけあってなかなかしたたかなジジイだ。
「あー……はいはい」
適当に言葉を濁すと同田貫は、手入れ部屋に入った。後ろ手に襖を静かに閉めると、鶴丸の枕元のあたりに腰をおろす。
「仕方ないから慰めてやるよ、今日だけは」
同田貫はそう告げると、鶴丸のまぶたを自身のてのひらでそっと覆った。
素早く顔を近付け、鶴丸の形のいい唇をしっとりと吸い上げる。
静まり返った手入れ部屋に、チュ、と微かに湿った音が響いた。
(2015.4.24)
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