次にホームに入ってきた電車は、全席ロマンスシートの車両だった。
こんな時間にロマンスカーが走っていることがあるのかと思いながらも二人がけのシートに腰を下ろした同田貫は、ヘッドホンを耳にあて、窓の外へと怠そうな視線を向ける。
帰宅途中の同田貫はだいたいいつもこんな感じだ。
窓際に肘をつき、だらっとした様子で片足でリズムを刻む。端から見たら貧乏揺すりだと言われかねないが、ついやってしまう。
しばらくそうやってヘッドホンから聞こえてくる音楽に集中していると、不意に誰かが声をかけてきた。
見ると、白いジャケット姿のえらく綺麗な男が同田貫の前に立って、こちらの顔を覗き込んでいた。
「……なんだよ?」
面倒臭そうに同田貫は片方の眉をぴくりと上げる。この仕草をすると、大抵の者は決まり悪そうに逃げていく。同田貫の顔を袈裟懸けに走る傷跡に、皆恐れをなすのだ。
しかし男は逃げなかった。
それどころか整った顔に柔らかな笑みを浮かべ、同田貫に尋ねかけてきた。
「隣、座ってもいいかな?」
意表を突かれた同田貫は、咄嗟のことに「はぁ?」と返してしまった。
「あ、駄目だったか?」
申し訳なさそうに尋ねられると、こちらが悪いことをしているような気分になる。同田貫はヘッドホンを外して首を横に振った。
「いいや。どうぞ、空いているから座れよ」
少しだけ窓際へと詰めてやると、男はスマートな身のこなしで座席に腰を下ろした。すらりとした長い足を組んで、背もたれに背を預けて座る男はモデルか何かのように見栄えがした。
一方の自分は、ジャージ姿にバックパックを抱えてシートに座っている。年の割には幼くみられることが多いものの、袈裟懸けに走る傷跡のせいで何もしなくても厳つい雰囲気が漂っている。
こんな華美な男と隣同士になるなんて、ついていない。
ヘッドホンを耳に戻して音楽に集中するふりをしながら同田貫は、はあぁ、と溜息をついた。
(2015.5.3)
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