刀であるということ

  ヒュンッ、と、風を切るような音がした。
  鋭い刃が同田貫の肩口を掠めていったように思えたが、そうではなかった。
  耳たぶから一筋の血が零れ落ちると同時にぼとりと音がして、同田貫の腕が手にした刀ごと地面に転がる。
「……あ?」
  無事な方の手を見て、それから地面へと視線を馳せる。
  一瞬、何が起こったのか同田貫には理解できなかった。
  赤い血が、炎のように素早く静かに、土の上に広がっていく。
  大量の赤が目の前にあった。鉄のような血のにおいが同田貫の鼻をつき、どこか遠くのほうで誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたような気がする。
「同田貫!」
  不意に鋭い声がしたかと思うと体をはじき飛ばされた。数歩たたらを踏んで地面に膝をつく。
  見ると、目の前に鶴丸の背中があった。白い戦装束を翻し、刀を構えている。
「鶴丸……?」
  動かなければと思ったものの、どうにも体が動いてくれない。
  地面の上に無様に転がる自分の腕を一瞥すると同田貫は、残ったほうの手を伸ばす。
  届かない。
  膝が擦れるのも構わずに、地面の上をにじり寄る。落とされた腕のほうへ。自身が手にすべき、刀のほうへ。
  長い時間をかけて刀を拾い上げた。さっきまでは熱かった刀が、今は冷たくなってしまっているような気がして、同田貫は眉間に皺を寄せた。
  敵はまだ、何人もいる。
  奥歯を噛み締め、痛みをこらえると同田貫はその場に立ち上がる。
  鶴丸が逃した敵へと向かって、同田貫は刀を振りかざすと無中で斬り込んでいった。



(2015.4.11)


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