『好き同士1』
あついあつい熱に捕らえられ、ぎゅっ、と抱き締められた。
程良く筋肉のついた胸板はほんのり汗のにおいがして、サンジは思わず、彼の背に手を回してしっかりとしがみつく。
砂漠の熱さを思い出すような高い体温に、サンジは小さく喉の奥で笑った。
「ん?」
低く優しい声で、顔を覗き込まれそうになり、サンジは慌てて男の胸にぐいぐいと鼻先を押し付ける。
「ここで抱けよ、エース」
表情を見られたくなかったから、できるだけ素っ気なくサンジは言った。
エースは、サンジの欲望を忠実に理解した。
抱き合ってキスをした。
真夜中の甲板はシンと静まりかえっており、押し寄せる波のチャプチャプいう音だけが夜の世界を支配していた。
「誰か来たら、どうするんだ?」
唇が触れそうなぐらいに近くに顔を寄せて、エースが尋ねる。
「そしたら、そン時だ」
にやりとサンジは笑った。
「そうか」
「そうだよ」
そう告げるとサンジは、エースの太股に自らの腰をぐいぐいと押し付けていく。
「すごく魅力的な提案だけど、今夜のところはやめておこう」
チュ、と唇が鳴る。エースの唇が、サンジの唇を軽く吸い上げた。
「なんでだ?」
拗ねたように、サンジは頬を膨らませた。唇を突き出して、気に入らないことこの上ないといった様子で目の前の恋人を睨み付ける。
「ここは、弟の船だからな。お前だって、肩身の狭い思いをしたくはないだろ?」
物わかりのいい模範的な恋人の言葉に、サンジはますます頬を膨らませる。
久しぶりの逢瀬なのだ。今、この場で抱かれたいと思っている。それぐらい切羽詰まった想いでいるのに、目の前の恋人にはそんな想いは微塵もないのだろうか?
「そんなことには、ならねえ」
ムッとした表情でサンジは返した。
サンジ自身が、ルフィたちと共に行くと決めたのだ。そしてサンジ自身が、エースを恋人に選んだのだ。自分の決めたことで何故、肩身の狭い思いをしなければならないのだろうか。
サンジが顔をあげると、エースは笑っていた。
「なんで笑ってんだ、ああ?」
低い声で凄んでみても、エースには大して効果はないようだ。
悪びれた様子もなく、エースは素早くサンジの額に唇を押し当てた。
「この次会う時に、必ず抱いてやる。だからそれまで、いい子でいろよ。」
そう、耳元に囁きかけられた。
咄嗟にサンジの足が、エースの足の甲を踏んづける。
「痛てぇ……」
エースは顔をしかめた。しかし口で言うほど痛がっているようでもないのを見て取ると、サンジは不機嫌そうにエースの腹に膝蹴りをヒットさせた。
「この次があるなんて思うなよ、馬鹿エース」
そう言ってエースからするりと身を離すや、ダンスのステップを踏むかのように軽やかに、サンジは身を翻して船室へと駆けだしていたのだった。
END
(H19.11.22)
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