『好き同士2』
笑顔が可愛いと、そんなことを思ってしまった。
自分と同じ男なのに、そう思うのはおかしいことだろうか?
歯をむき出して大きく笑っているのに、がさつさを感じることもなく。
素直に可愛いと、そんなふうに、サンジは思った。
男で、自分よりも一つ年上の恋人は、不思議と愛嬌がある。人当たりもよく、面倒見もいい。
何よりも、同じ男のサンジを大切にしてくれる。
だからサンジも、一つ年上の恋人を大いに甘やかしてしまうのだ。
背中にぺたりとはりついてくる恋人の体温の高さにも、サンジの顔はつい綻んでしまう。
一人でニヤニヤとしていると、頬をきゅ、とつねられた。
「なに笑ってんの? 思い出し笑い?」
尋ねかける恋人は、背後からサンジに負ぶさるような格好をしてピタリと体を寄せてきた。
「違げぇよ」
と、返しながらもサンジの口元は楽しそうに笑っている。
エースの力強い両腕がサンジの肩を抱き締めたと思うや、髪に、何度も口づけを落とされた。
「エッチなこと、考えてるんだろ」
最後の口づけは、サンジの耳の後ろだった。
エースの低い声が、背筋を伝わって体の芯へと伝わるような感じがして、サンジは小さく身じろぎをした。
「誰が……」
言い返そうとしたものの、サンジの声は掠れている。
くすっ、とエースが笑う。
「俺は、エッチなことがしたい」
そう言ってエースは、今度はサンジの白い項を軽く吸い上げた。チュ、と音を立てて唇を離すと、白い肌に淡い朱色の跡がついていた。
「どこでだったら、エッチしてもいい?」
尋ねかけてくるエースの声は、鼻にかかったような甘ったるい声をしている。
「ここ、以外のとこなら……」
サンジが答えると、エースは喉の奥で小さく笑った。
海の上で二人きりになれる場所は、限られている。
メリー号の甲板は誰もいなかったが、見張り台にはウソップがいる。もしかしたら、気付かれてしまうかもしれない。格納庫も然り。あそこは二人きりになれる空間でもあったが、ごく稀に、ゾロがいることがあった。いったいゾロが何をしているのかサンジにはさっぱりわからなかったが、とにかくあそこは論外だ。エースといい雰囲気になったところでゾロや他の誰かがやってきたら、それこそ目も当てられないような萎えた気分になること間違いなしだ。
じゃあ、二人きりになれる場所は……あれこれ悩みながらサンジは、エースの顔を見た。
苛ついたような顔をして、サンジはエースを睨み付ける。
「なんだ、どうした?」
エースはやんわりと尋ねかけた。こういう時のエースは、酷く優しい。駄々をこねる弟の頑なな気持ちをひとつひとつ解すかのように、サンジの言葉に耳を傾けてくれる。
「──二人きりになれる場所なんて、海の上にはないだろ」
拗ねたようにサンジが呟いた。
エースの厚い胸板に鼻先を押し付けて、サンジはすん、と鼻を啜った。
こんな時でも優しいエースは、笑っている。聞き分けのいいお兄ちゃんのような穏やかな笑顔で、サンジの気持ちが落ち着くのを待ってくれている。
「今度、どこかの港でデートしような」
耳元に、エースが言葉を吹き込んできた。
驚いたようにサンジが顔をあげると、エースはやっぱり、人のよさそうな、歯をむき出しにした大きな笑みを浮かべていた。
「絶対だぞ」
少しきつめの声色でサンジが言った。
「絶対だ」
力強く、エースは返した。
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