大振りの枝の先に残った淡い緋色の花々は、ところどころ茶色くなりはじめていた。今年は桜の開花が早かったから、入学式までもってくれなかったようだ。地面に散った花びらは、目が痛くなるほど白く見える。
目を細めてゾロは、校舎のほうを振り返った。
若緑色の葉が生い茂るその向こう側、教室の中にちらりと見えた姿をゾロが見間違えるはずがない。
あれは、サンジだ。
目をすがめると、どこか楽しそうにクラスメートたちとふざけるサンジの姿がはっきりと見える。
帰ろうと、思った。
ふい、と視線を逸らすとゾロは、校門を出て家までの道を歩きだした。
ようやくこの街に戻ってきて、サンジと再会できたというのに、なんだかどうでもいいことのように思えた。
つまらん、と、口の中で小さく呟くと、足下の小石を蹴飛ばした。
コロコロと転がって、小石はすぐそばの繁みに飛び込んでいった。
チッ、と舌打ちをしてゾロは、のろのろと歩きだす。
同じように帰宅する生徒たちを追い越し、追い越されながら、ゾロは歩いた。
学校から自宅までは、十分ほどだ。
通学に便利なようにと、学校近くのマンションを選ばされた。ゾロは別に、どこでもよかった。もっと小さなアパートでもよかったし、叔父夫婦のところで居候をしてもよかったのだ。
それをあの女が、恩着せがましく……と、ここまで考えてゾロは、苦々しい表情で首を横に振った。
どこでも構わないのなら、学校近くのマンションでもいいだろう。
きっと奥歯を噛み締め、口元を引き締めた。
道の向こうにマンションが見えてきた。
自分にとって家と呼べる場所は、今は、ここしかないのだ。
マンションの玄関をくぐるとエレベーターの前を通り過ぎ、階段へと足を向けた。一段飛ばしに階段を駆け上がり、十一階の部屋に辿り着く。息が少し乱れている。怪我をしてからまともに運動をする機会などほとんどなくなってしまっていたから、こんなことになるのだ。怪我をする前ならきっと、これぐらいのことで息が切れるようなことはなかったはずだ。
苛々と鍵を開けると、部屋に入る。
脱ぎ捨てた靴は、玄関に散らばったまま、ゾロの苛々とした不機嫌な気持ちをあらわしているかのようだった。