電話の音で目が覚めた。リビングの隅に置かれた電話が柔らかな電子音を立てている。
しばらく放置していると、そのうちに電話は切れてしまったようだ。
薄目をあけてゾロは、のろのろと体を起こす。
ソファでうたた寝をしてしまったからだろうか、体のそこここが凝り固まっていた。怪我の名残の胸の傷がじくじくと痛むような気がして、時間をかけてゾロはソファから降りた。
今度こそ我慢できずに冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出し、ラッパ飲みでゴクゴクと一気に飲み干していく。
リビングの窓の向こうはしだいに薄暗くなり始めている。
窓の向こうに、風見鶏が見えていた。
風が吹いているのか、風見鶏はのんびりとした様子でくるんと体を回した。オレンジ色の空に浮かぶ黒い鉄の鶏。あの鶏はいつも、何を考えてあたりを見回しているのだろう。
薄暗くなってきた部屋の電気をつけることもせず、ゾロはじっと窓の外を眺めている。
どれぐらいそうしていただろう。
カチリ、と鍵の開く微かな音が聞こえた。
「ただいま」
ロビンの声だった。落ち着いた大人の女の低い声だと、ゾロは思う。ションベン臭い同級生の女どものキンキンした声とは違う。
「あら、珍しい。帰っていたのね」
ドアを開けるなり、ロビンが静かに声をかけてくる。
「ああ。入学式だったからな」
ゾロが返すと、ロビンは小さく溜息をついた。
「言ってくれればよかったのに。入学式、出たかったわ」
学校が始まることは話してあったが、今日からだとは言っていなかったかもしれない。少しばかり考えて、ゾロは、頭を微かに振った。
「冗談。赤の他人のアンタがどんな顔して出席するんだよ」
こういった入学や卒業の行事は、叔父夫婦に来てもらうのも恥ずかしく感じていたゾロだ。ましてやロビンとは血の繋がりもない。来てもらわなくて結構と、片手を振ってゾロは強引に話を終わらせた。どちらにしても、式は既に終わっている。今さら出席したいと言ってもどうすることもできないのだが。
「出かけるの?」
部屋を出ていこうとするゾロに、ロビンは声をかけた。
「ちょっと散歩に行ってくる」
ロビンが何か返す前にゾロは、部屋を後にした。
パタンとドアが音を立てて閉じた。