草の上で眠っていたからだろうか、いつの間にか夢を見ていた。
懐かしい、幼稚園の頃の夢だ。
久しぶりにサンジに会ったからだろうか、それとも桜の花を目にしたからだろうか、そのどちらもが夢に出てきた。
あれは幼稚園の入園式の日のことだった。
その頃はまだゾロの両親も健在で、母親に手を引かれて幼稚園の門をくぐったことを覚えている。繋いでいた手が離れた後でてのひらを鼻先に持っていくと、ほんのりと石鹸のようにやわらかな香りがした。ゾロにとって、母の香りとは石鹸の香りとなって記憶に刻まれている。
まちがっても消毒用石鹸のきつい香りではない。夢の中でぼんやりと、ゾロは思った。
幼稚園の門をくぐると、園庭を駆け回っていた子どもがふと、こちらに顔を向ける。女の子のように色の白い、金髪の子どもがいそいそと駆け寄ってくる。サンジだ。そういえば、出会った瞬間にゾロは、サンジのことを女の子っぽいヤツだなと感じたのだっけ。実際にはちっとも女の子っぽくなどなかったのだが、この時は何故か、そんなふうに思ってしまったのだ。
一瞬でもサンジのことを元気のいい女の子と見間違ってしまったゾロは、何となくバツが悪くて、駆け寄ってくるサンジに不機嫌そうに言い放った。
「お前、女みてえな顔してんな。男女なのか?」
その途端、サンジの跳び蹴りを腹に食らったのも今ではいい思い出だ。
思えばあの頃が、いちばん幸せだったような気がする。
両親のいる家庭で何ひとつ不自由なく日々を送っていた。日が暮れるまで風見鶏の見える丘に登って、サンジと二人で遊んでいられた。何も考えずにサンジのそばにいることができた。
丘の端のしだれ桜が風に吹かれると、白い花びらが雪のように舞い飛ぶのを見て、二人して一心に花びらを追いかけたあの日が懐かしい。
ひとしきり幼い頃の夢を見て、幸せな気分でゾロは目覚めた。
あの頃と同じように今夜も、夜風に吹かれて桜の花びらが舞っている。
夢を見たのはきっと、この桜の花びらのせいだろう。
のそりと暗がりの中で体を起こしたゾロは、不意にぎょっとした。
たらりと垂れた優しげな枝の向こうに、サンジのほっそりとした姿が見えたような気が、した。