湿った風がまとわりついて不快だ。あんなに高くあった太陽はずいぶんと落ちて、朱色に姿を変えている。
サンジはぼんやりと、眼下にのぞく風見鶏を眺めた。小さな頃から毎日毎日、見上げたり見下ろしたりしてきたそれは、今日でお別れだ。この時期特有の強風に吹かれ、忙しなく回っている。細い金髪を巻き上げられ、視界を遮られた。
梅雨の生温い空気に汗がにじむ。背後で鳴る葉擦れが密やかな笑い声に聞こえる。
煙草をくわえ、風に背をむけてコンビニエンスストアで購入した透明な蛍光グリーンの百円ライターを近づけた。横には灰皿代わりの空になったペットボトルが転がっている。
父親の転勤が決まってから、学校の手続きや友人達からの再三に渡る送別会などで今日まで来た。悲しい気持ちはなかった。むしろ最後までお祭り騒ぎで、毎日が楽しくてしょうがなかった。
どうせ高校はこの地区の学校を受験するのだ。すぐに戻ってこられる。たった数ヶ月の辛抱だ。
今の仲間はもちろん大切だが、新しい学校でもきっとたくさんの友達ができるだろう。不安よりは断然、期待のほうが大きかった。
そんな中、一つだけあった心残りは幼なじみだった。幼少の頃から一緒で、小学校で転校していってしまうまでずっと隣にいた、ゾロだ。
中学校は別々だったけれど、偶然にも通学の電車が一駅だけ同じだった。おかげで毎朝同じ時間に乗るものだから、遅刻はなかったし休みもしなかった。
その五分間が大事な日課だった。
そして腐れ縁はいまも続いている。その幼なじみに何故か言い出せなくて、やっとのことで引っ越し前日の昨夜に電話をした。
なかなか本題に入れなくて、どうでもいいことをつらつら話した。ゾロは時たま相槌のような返事をするだけで、ほとんどサンジが喋っていた。
父の都合で六月いっぱいまでの中途半端な時期の転校だ。最後の登校が土曜日で、その日はクラスメイトの誘いを断り、ゾロと会う約束をした。そこで話すつもりだった。
ようやく『いつものとこで弁当食おうぜ』と言えば、『だし巻き玉子はちょっと甘いのがいい』とリクエストしてきた。電話越しのゾロが妙にくすぐったくて、少し頬が熱くなった。
十三時に待ち合わせたけれど、どうせ一時間は遅れるだろう。蒸し暑い中、木陰に行き芝生に腰をおろした。陽を遮ると、吹き抜ける生暖かな風も気持ちよくて、伸びをして仰向けに寝そべる。
きっと自分達はこのままだ。離れてしまっても変わらずにいられる。一度ゾロが転校してしまったけれど、現に変わらずにつるんでいるのだ。
時計を見た。あと四十分は来ないだろう。それまで一眠りしようと、微睡みだした意識を手放した。