照りつける陽射しに目を覚ました。木陰はすっかり移動してしまっている。
傾きかけた陽に時間を確認した。十五時半をゆうに過ぎている。辺りを見回してもゾロの来た気配がない。額の汗を拭い、それから慌てて弁当箱の入った袋を手繰りよせた。
「なにやってんだよ、あの馬鹿」
夏を目前に控え、ただでさえ傷みやすい気温だ。ペットボトルの紅茶はすっかり温くなっている。姿がないか見渡してため息をついた。
こんな時、携帯電話があればと思う。中学三年にもなって持っていないのはサンジくらいだ。今時、友達とメールできない中学生なんているのだろうか。
勉強に差し支えると、たいして息子の成績など気にしないような親に言われても納得がいかない。どうせ手続きが面倒だっただけだ。
そこまで思い返して、もう一度深く息を吐いた。苛々と腕時計を睨み、煙草に火を点けた。
もしかしたら忘れて剣道の稽古に励んでいるかもしれない。大事な話があると言えばよかった。せっかくゾロの好きな卵焼きを入れたのに。
昨日のゾロの声を思い出し、もう少し待ってみようと、日陰へ移動した。
けれど結局ゾロは来なかった。弁当は傷んでしまったろう。幼なじみのために作ったものを一人で食べる気にはなれなかった。食べてもらえなかった料理を可哀想に感じた。
もう行かなくてはならない。夕方には着くと言ってあったから、先に向かった両親が心配しているだろう。本当はずっと待っていたかった。どんなに遅くなってもいい、ただ無性に会いたかった。隣に並んで風見鶏を見たかった。それがたとえ夜に溶けてしまっていても良かったのだ。
どうしても今日、会っておきたかったのだ。
すっぽかされたことがすごく悲しくて、酷くショックを受けた。すっかり熱をためたプラスチックの四角い入れ物と吸い殻だらけのペットボトルを手に取る。荷物がやけに重い。
もう少したてば夕日が沈み、この暑さも落ち着くだろう。ここから風見鶏を眺めることもしばらくはない。
素知らぬ素振りでくるくると動き回る様子がゾロに重なる。いつも目を離すといなくなる男は姿さえ見せない。ふらふらと自分をおいて、もしかしたら一人でいたかったのか。そうだったならば、ずっと悪いことをしていた。
胸の辺りが苦しい。怒りもあるし悔しいような悲しい気持ちもある。可笑しくもないのに笑う。そうでもしないと、目の前がぼやけてきそうで嫌だった。
その時はまだ約束を破られた思いでいっぱいだった。幼い頃から共にいる男が無闇にそういうことをしないと知っていたはずなのに、心に余裕がなかった。
どうしてゾロが来ないのか考えもしなかった。来ないのではなく来れなかったのだと知ったのは、ずっと後になってからだ。
それはサンジが高校二年になった春、同じ学校にゾロが新入生として入学してきた暖かな日だった。