第一印象の最悪だった毬藻頭のイメージを変えたのは、あれから数ヶ月たったある日のこと。
サンジは仲良くなったエースとといつも遊んでいたが、その日はお休みだった。砂場で他の園児たちと山を作ったりトンネルを掘ったりしていたところに、エースの弟のルフィが両手になにかを閉じ込めてやって来た。
「サンジー、これやる!おっきくなったらちょうになんぞ!」
ルフィはそう言って、しゃがむサンジにぼとぼとと手中の毛虫を落とした。びっしりと焦げ茶色の毛の生えた物体が砂の山と肩に降ってきた。青い目を見開き、一拍おいて、サンジは園内に響き渡る悲鳴をあげた。
「ぎゃぁぁああああ」
何匹もいる毛虫が怖くて動けなくなってしまったサンジは大声を上げてその場で泣き出した。他の子供たちはそんなサンジに驚いてしまい、みんな離れてしまう。当のルフィはきょとんと首を傾げていた。
先生方より先にその窮地を救ったのが、他でもない毬藻頭だった。ルフィに何事か言って、泣きわめいて何を喋っているのか分からないサンジに近づくと、肩に乗っかっている毛虫をぽいぽい捨て、立ち尽くしている手を握って砂場から引っ張り出した。
ようやく毛虫地獄から解放されたサンジは安堵のせいか、また意味不明の言葉を口にして声を上げて泣き出した。
「もうついてねー」
ゾロが金髪にぽんぽんと手をのせた。不器用なそれに、なんだかやっと心が落ち着いてきた。
サンジは涙を手の甲で拭うと、ゾロを見た。ばつが悪そうに少し唇をとがらせてそっぽを向いている。
太陽の光にエメラルドグリーンの髪が淡く輝いている。いつ見てもさわり心地の良さそうなそれに、入園式を思い出した。勝手に触ったら怒って突き飛ばされた。それにサンジも腹がたって飛び蹴りをした。
なんてことしてしまったんだろう。毬藻は助けてくれたのに、自分は蹴っ飛ばしてしまった。
そう思うとまた涙と鼻水が溢れてきた。目の前の子供はぎょっとして、慌てて手を離した。それが悲しくて、サンジはとうとう泣きはじめた。
「…めん、けって…ごめ、ね」
しゃくり上げながらなんとか謝る。それからお願いしてみる。
「おれ、おれも…さわってい?」
鼻水をすすって反応を待つと、眉をしかめて首をかしげた。断られたのだと思い、ぼろぼろと涙がこぼれた。そうしたら泣くなと抱きしめられて、また頭を撫でられた。
サンジはつられて同じように抱きしめ返して、念願の毬藻に触れた。
「まりも…」
鼻声で呼んでみると、まりもじゃねえと返された。怒ったのかと不安になったら、心を読んだように怒ってないと言われた。
「…ゾロだ」
「ゾロ?」
「おう」
「ゾロ」
「…おう」
「…ゾロ、ゾロ」
「……」
嬉しくて何度も呼んだ。最後のほうは返事をしてくれなかったけれど、それは怒ってるわけじゃないと、なんとなく分かった。
ぎゅうっと抱きしめると、ゾロの腕にも力がこもる。なんて安心できるんだろう。
入園式から数ヶ月、サンジはようやく念願だったゾロの毬藻頭を思う存分に触る権利とついでにその所有者の隣を手に入れたのだった。