キスをしたい。抱きしめたい。もっと触れてみたい。誰でも触れられるようなありきたりな場所ではなく、性的に興味のある場所にはどこにでも触れてみたいと、獄寺は思う。髪や頬や手や唇だけでなく、それ以外のところに触れてみたい。
だけどどうやって触れればいいのだろうか。
綱吉は、おとなしく触らせてくれるだろうか? それとも嫌がるだろうか?
「ん、ん……」
口の中に突っ込んだ指に唾液が絡み、ぴちゃ、と淫猥な音がした。
綱吉の鼻にかかったような甘えた声に、獄寺の体がカッと熱くなる。下半身へと熱が集まっていくのが感じられ、このままでは抑えがきかなくなりそうだった。
「じゅ…代、目──」
唾を飲み込んだばかりの喉がカラカラに渇いている。もう一度、獄寺は唾を飲み込んだ。 綱吉の口の中からのろのろと指を引きずり出すと、獄寺の指は唾液でしっとりと濡れていた。甘ったるい綱吉のにおいがするような気がして、獄寺は濡れた指を自分の口元に持っていくと、ペロリと舐める。指先の一本一本に舌を這わせて綱吉の唾液を味わった。
「ちょ、やめてよ、獄寺君。汚いって」
慌てて綱吉の手が、獄寺の手首を掴む。
「大丈夫っスよ、十代目」
そう言うと獄寺は、もう一方の手で綱吉の顎をくい、と持ち上げた。
唇を合わせると、いっそう甘いにおいが強くなる。
綱吉のにおいだと思うと、それだけで獄寺の体の中で燻っている熱が勢いを増してくるようだ。
「ん、ふ…ぅ……」
綱吉の手が、縋りつくように獄寺のシャツをぎゅっと握りしめた。
舌先に力を入れてぐいと唇を割り開き、強引に口の中に潜り込ませる。
「んんっ!」
指で触れた時よりも、舌で触れた時のほうが綱吉の舌は滑らかなように感じられた。舌先で綱吉の舌をつつくと、奥の方へと逃げようとする。恐がらせないように獄寺は、そっと舌を絡めていく。綱吉の舌の裏に自分の舌を差し込み、やんわりと唾液ごと吸い上げた。じゅる、じゅる、と音を立てて綱吉の唾液を吸い取っていくと、華奢な体がビクンと震えるのがわかる。
唇をずらして、別の角度からキスをした。
二人の間にあるテーブルが邪魔になったが、気にしているほどの余裕もなかった。
「ん……ぁ……」
息継ぎの合間に、綱吉の声が獄寺の耳を刺激する。さらに深く唇を合わせようとしたところで、カタンと何かが倒れる音が聞こえた。
獄寺が薄目を開けると、その時には綱吉はしっかりと目を開けていた。大きく目を見開いて、獄寺のキスから逃れようとしている。
「お嫌でしたか?」
唇を放して獄寺が尋ねると、綱吉は困ったように俯きながらも、しきりと床を気にしている。
「……ごめっ、獄寺君!」
まだ掴んだままだった獄寺の手を振り解いて、綱吉は床に飛びついた。
「え……?」
「ごめんね、獄寺君。俺、ペットボトル倒しちゃったみたいで……」
よほど焦っているのだろう、小動物のように忙しなく動き回りながら綱吉は、床に零れたジュースを持っていたハンカチで拭き取ろうとしている。
「構いませんよ、十代目」
獄寺は言った。
「後で片付けますから、お気になさらないでください」
そう言って獄寺は、まだしゃがみこんだままの綱吉の体を背中から抱きしめた。
心臓がドキドキしている。
好きな人に、こんなに近くで触れている。
はっきりと性的な欲求を持った状態でこんなふうに好きな人に触れるのは、獄寺にとっては初めてのことだった。
このままぎゅっと抱きしめていたい。そう思う一方で、抱きしめて、押し倒してしまいたいという気持ちが獄寺の胸の奥底で渦巻いている。
まだ、綱吉は自分の気持ちをはっきりと認識しているわけではないような気がする。獄寺のことを好きだと思いながらも、どこかしら戸惑いや躊躇いを感じているようなところがある。もしかしたらこの先、綱吉の気持ちは京子やハルに戻っていくかもしれない。だとしたら、自分はどうしたらいいのだろう。
いちばんいいのは、今、この瞬間に綱吉を自分のものにしてしまうことだ。
力尽くでものにして、がんじがらめにして自分に縛り付けておけばいい。そうすれば、他の女共に綱吉の目がいくこともないだろう。そしてあわよくば、一生自分だけのものにすることができるかもしれない。
「あ…の、獄寺君?」
抱きしめる獄寺の手に、綱吉が手を重ねてくる。
「……フ、フローリングが痛んじゃうよ?」
何気ないフリを装って喋る綱吉が憎らしくて、獄寺は唇を噛みしめた。
抱きしめた腕に力を入れると、腕の中で綱吉が小さく震えるのが感じられる。怯えているのだろうか。
「好きです、十代目」
掠れた声で獄寺が呟くと、綱吉は微かに頷いた。
「好きなんです──!」
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