砂に沁む水

  あれはいったい、いつ頃のことだろう。
  獄寺の自分を省みない無鉄砲さに気付いた綱吉は、その頃から彼のことを気にかけるようになっていった。
  綱吉のためなら無条件に命までも投げ出してしまいそうな獄寺のやり口に、いつも不安がつきまとっていた。
  だから好きになったのだろうかと綱吉は思う。
  獄寺のこういった危うくも強い意志が間違った方向へいかないように、自分がそばにいるべきではないかと、そんな偽善的な思いを持ったことがそもそもの始まりではないだろうか。
  嫌いではない。好きかと問われれば、たぶん今の自分では答えに迷うだろう。
  もちろん、親友として大事に思っているが、ファミリーのボスとしての立場から答えなければならならいのなら、きっと大切な右腕だと返すだろう。
  しかし本当はそのどちらでもない。
  思い上がっていたわけではないが、自分なら獄寺を止められる、御することができるのではないかと思っていた。
  実際には、そんな必要はなかったわけだ。リボーンや仲間たちと出会ってからの綱吉が急激に成長したように、獄寺もまた、成長し続けていた。体の面だけでなく、心もだ。未来の世界で戦った獄寺は、ヴァリアーと戦った時の闇雲に命を危険にさらすような無謀な獄寺ではないのだ。
  綱吉は、心の底から獄寺の成長を喜んでいる。自分の手を離れたというある種の寂しさを感じないわけではなかったが、獄寺を戦いの先頭に立たすことに対してこれまで感じていた不安がようやく取り除かれたのだと思うと、ホッとせずにはいられない。
  そんなことを考えながら目の前の獄寺をじっと見つめていると、照れたように獄寺が口を開いた。
「……いいっスか、十代目?」
  いいも悪いも、獄寺次第なのにと綱吉は思った。
  綱吉は微かに笑みを浮かべた。神妙な顔つきで獄寺は、綱吉の着衣に手をかけた。



  時間をかけて、互いに相手の衣服を脱がし合った。
  二人とも体のあちこちに痣が残っている。満身創痍で戦ったのだから、当たり前だろう。
  獄寺の脇腹にある青痣にそっと触れてみる。痛くはないのだろうか。獄寺は平然としているが、綱吉には触れた指先から痛みが自分の中に流れ込んできそうな気がして、さっと手を引っ込めた。
「……痛くない?」
  尋ねると、獄寺ははにかんだような笑みを浮かべた。
「十代目に触れられないことのほうが痛いです」
  そう告げると獄寺は、口元を尖らせる。
  ヴァリアーとの戦いの後、二人は自分たちが互いに想い合っていることに気付いた。そこから先は、ボールが坂を転がり落ちていくように早かった。いちど自分たちの想いに気付いてしまうと、先へ、先へと気ばかりが焦って走り出す。手を繋いで、キスをして、それから抱き合って……体がついていかないと音を上げかけた綱吉を、獄寺は受け止めてくれた。そのままの十代目でいいんですと、抱きしめてくれた。
  未来の世界にいる間、獄寺に誘われるまま、ボンゴレ基地で何度かセックスをした。
  最初の時は、獄寺のほうから求めてきた。幼い知識なりに頑張ったほうだと綱吉は思う。キスをして、互いに触り合うところから始めて、何度か獄寺の中に挿入することまでした。どの時点でばれてしまったのかはわからないが、ラル・ミルチには気付かれていた。獄寺から聞いた話ではビアンキにも気付かれていたらしい。そしておそらく、ユニにも……。
  裸の胸元に唇を押しつけると、くすぐったいのか獄寺が喉の奥で笑った。
「じっとして」
  しかつめらしく綱吉が告げる。
  すぐに獄寺の手が綱吉の髪の中に差し込まれ、優しく髪を乱された。



  いつの間にか獄寺は、綱吉の上に乗り上げていた。
  腹の上に座り込んだ獄寺の体重が心地よい。決して軽いわけではないが、すぐそこに獄寺がいるのだと感じられる。
  手を伸ばして綱吉は、獄寺の腕を引いた。
「キス、して……」
  掠れた声で乞うと、すぐに獄寺の唇がおりてくる。
  チュ、と軽く唇を触れ合わせ、何度かキスをした。うっすらと口を開くと、物わかりのいい獄寺は舌を差し込んでくる。生暖かい唾液が綱吉の口の中に流れ込んでくるのを嚥下すると、獄寺の舌に自分の舌を絡め、やんわりと吸った。
「ん……」
  鼻にかかった獄寺の声に、綱吉の下半身の血液がズキンと沸き立つ。
  キスの合間に手を伸ばし、獄寺の下腹部に触れた。陰毛の中で眠る性器をなでると、太股がピクンと震えるのが感じられる。
「ぁ……」
  そっと唇が離れていく。唾液で濡れた獄寺の唇が光っている。色っぽいと、綱吉は思った。
「まだ……触らないでください」
  そう言うと獄寺は、悪戯っぽく唇をペロリと舐める。
  赤い舌が翻り、誘うように蠢いた。



  柔らかな唇が綱吉の肌を滑り降りていく。
  丁寧に獄寺は、綱吉の肌に唇を這わせた。舌で舐めたかと思うと、くちづけて皮膚をやんわりと吸い上げ、ゆっくりと下腹部へと降りていく。
  最初に抱き合った時から獄寺は積極的だった。男同士の行為についてほとんど知識のない綱吉をリードする獄寺に、始終驚かされっぱなしだった。
  男同士ではどこを使うのかすら、綱吉は考えたこともなかった。これまではそんなこと、知る必要もなかったのだ。
  獄寺の唇は的確に、綱吉のいいとろを捉えていく。
  臍のあたりを執拗に舐めたり舌でつついたりしながらも獄寺の片手は、綱吉の性器を撫で回している。指で形を辿ったかと思うと、手のひらに包んできゅっと皮を下げるようにして竿を扱いたりと熱心だ。
  綱吉の体の中の熱が、しだいに腹の底へと集まりだす。熱の塊が出口を求めてものすごい速さで血管を巡っているような感じがする。
「獄寺君……」
  呟いた声は、掠れていた。欲情した自身の声に、綱吉の頭がカッとなる。
「大丈夫っスよ、十代目」
  そう言うと獄寺は、綱吉の性器に口を這わした。
  飲み込まれていく感覚に、強い射精感を感じた。獄寺は口の端をきゅっと閉じると、竿に舌を絡ませた。
「ん、ふ……」
  クチュクチュと湿った音が聞こえてくるのにも、綱吉は恥ずかしさを感じる。
  獄寺の口が自分のものをくわえている光景を目にすると、それだけで綱吉は興奮してしまう。気持ちいいのと恥ずかしいのと、それから目の前の男を征服したいという欲求とが入り交じって、いてもたってもいられなくなってくる。
「獄寺君」
  もういちど名前を呼ぶと、顔を上げた獄寺は見せつけるかのように綱吉の性器を片手で愛撫しながら、竿に舌を這わせた。
  赤い舌がエロチックで、その光景を目にしただけで綱吉の腰が砕けそうになった。