午前3時の…

  綱吉の記憶が戻るまで我慢できない自分の性に対する貪欲さには、まったく呆れてしまう。
  そんなにも自分は、抱かれたいのか。
  綱吉に抱いてもらわなければ一人で夜を過ごすことができないのかと、胸の内で自分を責めてみる。
  本当のところ、獄寺自身も自分の気持ちを持て余している。
  綱吉に抱かれたいと思いながらも、気持ちの上では記憶を失った綱吉に抱かれることに小さな抵抗を感じてもいる。
  だけど、抱かれなければ体の我慢がきかなくなっているのもまた事実だった。
  綱吉との生活は、獄寺を堕落させるものだったのかもしれない。いや、もしかしたら逆なのかもしれない。自分が、綱吉を堕落させてしまった。だから綱吉は記憶を失ってしまったのではないだろうか。獄寺のことだけをきれいさっぱり忘れてしまっているのがいい証拠だ。もしかしたら獄寺と出会う前の生活に戻りたいと、綱吉は思っていたのかもしれない。
  こんな……男の愛人のような存在との中途半端な同棲生活など、そういつまでも続けていられるわけでもないだろう。
  心のどこかで綱吉は、獄寺と別れたいと思っていたのかもしれない。
  もしそうだとするなら、これが最後になってもいい、綱吉との最後のセックスになっても構わないと、獄寺は思う。
  綱吉の指が、ゆっくりと獄寺の腹を辿り、陰毛を掻き分け、勃ち上がったものに優しく触れてきた。
「ああ……」
  もっと触れてくださいと、獄寺は腰を綱吉のほうへと突き出した。
「なんだ、触って欲しいのか?」
  尋ねられ、獄寺はこくこくと首を振った。
  もっとダイレクトに触れて欲しかった。竿を握りしめ、強く扱いて欲しい。それから……後ろの、狭く窄まったところに指を入れて欲しい……考えただけでも腹の底が熱くなってくる。
「さ……触ってください、十代目!」
  自分はなんて浅ましいのだろう。
  路地裏で生きていた時から自分は、こんなふうだっただろうか? あの頃からこんなふうに、男に抱かれたがっていたのだろうか?
「触るだけか?」
「舐め……舐めてください……俺の……」
  尋ね返され、思わず口走っていた。
  綱吉にされることは、全て覚えておきたい。全身で、なにもかも記憶しておきたいと獄寺は思った。
  もしかたら自分は、ここを出ていかなければならなくなるかもしれない。そうしたら、目の前にいる綱吉に抱かれた記憶だけが、獄寺のたったひとつの思い出になるのだ。
  綱吉が、獄寺の足下にゆっくりと跪いた。
  勃ち上がり、先端に透明な液を滲ませてヒクついている獄寺の竿を、綱吉の手が捕らえる。根本をやんわりと握りしめると、亀頭に唇を押しつけて鈴口に溜まった先走りをチュウ、と啜り上げる。
「あっ、ああ……!」
  獄寺の膝がカクカクとなった。腕の戒めが軋み、手首に食い込んでくる。手探りで獄寺は、階段の手摺り柵にしがみついた。
  腹筋が波打ち、獄寺の全身がビクビクと震える。
  それを見て綱吉は小さく笑った。意地の悪い、綱吉らしからぬ笑みだった。
  それでも、綱吉に触れられることを嬉しく思う自分がいる。無茶苦茶にされても構わないと獄寺は思った。綱吉に抱かれるのなら、それでもいい。どんなに酷くされても、綱吉を感じることができるのなら充分だ。それで獄寺の想いは満たされる……はず、だ。
  綱吉の舌が、獄寺の竿の裏側を舐め上げる。硬く尖らせた舌が裏側の敏感なところを何度も往復しながら少しずつ先端へと向かう。カリの部分にチュッ、と唇を寄せてから綱吉は、獄寺のペニスを口の中へと含んでいく。
「あ、あ……」
  飲み込まれていく。
  自分の性器がパクリと銜えられ、綱吉の口の中に、竿が潜り込んでいく。口全体できゅっ、と竿を締めつけられると、獄寺の腰が不安定に揺れる。
「や、ぁ……」
  先端がじわりと熱くなり、先走りが滲むのが感じられる。綱吉はそれを、目を細めて啜り上げる。チュウ、と音を立てて吸い上げられ、獄寺の下腹部に新たな熱が込み上げてくる。
  気持ちいい。なのに、手首に食い込む皮の痛みが容赦なく獄寺に現実を思い知らそうとする。もっと夢を見ていたいのに。自分は綱吉に愛されているのだと、抱かれている間だけでもそう思い込みたいのに。
  クチュ、クチュ、と湿った音を立てながら綱吉は、獄寺の竿で口で扱いた。
  綱吉の唾液と獄寺自身の先走りとで竿がすっかりベタベタになる頃には、獄寺の身体はすっかり熱っぽく、足下が覚束ない状態になっていた。
  綱吉の舌が竿に強く絡みつき、ジュッ、と唾液ごと啜り上げてからゆっくりと離れていく。焦らすような舌の動きに、獄寺の腹筋がヒクヒクと震える。
  外気にさらされたペニスがふるん、と大きく震えた。濡れててかっているのは、綱吉の唾液のせいだ。
  綱吉がフフッ、と低く笑った。その吐息が獄寺の先端にかかるだけで、割れ目に新たな先走りが滲み出てくる。
  滲み出た先走りを指の腹で掬い上げた綱吉は、獄寺に見せつけるように人差し指と親指とでニチャニチャと音を立てながらその手を後ろへと回していく。獄寺の尻の狭間、奥まったところへと指が潜り込み……ツプリと指が差し込まれる。
  獄寺は息を止め、喉の奥から込み上げてくる声を押し殺そうとした。
  意地の悪いニヤニヤ笑いを口元に浮かべた綱吉は、グニグニと指を動かした。
  綱吉の指が、獄寺の中を擦り上げる。内壁をやんわりと引っ掻き、奥のほうのいいところを探し出そうと出入りを繰り返す。浅いところをくすぐられ、獄寺の膝がカクンと折れそうになる。
「声を……」
  掠れる声で、綱吉が命令する。
「声を、出すんだ。お前がどんな声で啼くのか、確かめたい」
  もしかして綱吉も興奮しているのだろうか? 獄寺のこの痴態を見て? ありえないと思いながらも、そうであればと獄寺は願う。
  記憶を失っていようがやはり綱吉は、綱吉。獄寺を引き取り、家族のように愛情を注いでくれる大切な人なのだから。
  こんなにも自分の気持ちが矛盾にまみれているから、中途半端なのだろうか。ふと、そんなことを獄寺は考えた。
  自分がこんなふうに頼りないから、綱吉はいつまで経っても獄寺のことを頼りにしてくれなかったのだろうか。二十四歳と言えばもういい歳をした大人だというのに、なにひとつ綱吉自身のことを話してくれなかったのは、自分に起因しているのだろうか。獄寺が、こんなふうに自分の気持ちひとつ持て余し、扱いあぐねていたから……だから、綱吉は……。
  その先を考えることはできなかった。もしかしたらという気持ちはこれまでから常に獄寺の中にあったものの、今はそんな悠長なことを考えているような余裕はなかった。