「十代目……」
獄寺が囁きかけると、綱吉は手を伸ばしてきた。両手でそっと獄寺のわき腹を掴むと、やんわりと腰を揺さぶってくる。
「ぁ……」
優しく揺らされただけだというのに、気持ちよくてたまらない。綱吉の腕を掴んで足をピン、と伸ばすと、不意に電流のような痺れとも快感ともつかないものがつま先まで駆け抜けた。グッとつま先に力を入れると、自然と尻が綱吉を締めつける。
「ああっ……!」
ペニスの先からダラダラと先走りを溢れさせながら、獄寺は体を揺さぶられている。
「キツくない、獄寺君?」
尋ねられ、獄寺は首を横に振った。口を開くとそれだけで、余計なことまで口走ってしまいそうだ。歯を食いしばり、ぎっと綱吉を睨みつける。
「だ…大丈夫っス……」
そう返すと獄寺は、掴んだ綱吉の腕にやんわりと爪を立てる。綱吉は喉を鳴らして笑っていた。
「強情っ張りだけど……そういうところ、俺は好きだな」
言いながら綱吉は、獄寺の腰をがしがしと揺さぶっている。強弱をつけて揺さぶると、繋がった部分に力が入る。獄寺の締めつけはますます強くなり、綱吉は気持ちよさそうに口元を緩めた。
「どこが気持ちいい?」
尋ねられ、獄寺は眉間に皺を寄せる。
そんなことをいちいち尋ねないでほしいと獄寺は思う。こうして抱かれて、顔を見上げられているだけで充分恥ずかしいというのに、綱吉はさらに恥ずかしい思いを自分にさせようというのだろうか。
「あっ、そこ……」
内壁の奥のほうを綱吉の先端がぐい、と押し上げ、その瞬間、獄寺の口から言葉が零れ出た。
「そこ、十代目、気持ちい……」
膝に力を入れると獄寺は自分から腰を動かした。
寝そべったままの綱吉が、ハッと息を飲むのが感じられた。
下からの突き上げに、獄寺はいつの間にか啜り泣いていた。
頭の中が真っ白になり、少し前からなにも考えられないでいる。快楽を追いかけるだけで、今の獄寺には精一杯だ。天井のほうへと顔を向けた獄寺は目を閉じて快楽を追っている。綱吉に与えられる快楽は、甘くて痺れるようで、少しだけ痛い。肺の中に酸素を取り込もうとして口を開けると、涎が顎を伝った。
「気持ちいい?」
何度も綱吉は尋ねてくる。
いつの間にか綱吉の片手は、獄寺の性器を握りしめていた。てのひらで竿をきゅっと握りしめると、手を上下にスライドさせる。先走りが竿を伝い、綱吉の手にぬめりを与えたからだろうか、グチュグチュと湿った音がしている。
「ん、や……」
弱々しく首を左右に振ると獄寺は、はあ、と息を吐き出す。
「じゅ……だい、め……」
腹の底に集まった熱の塊が、出口を求めて獄寺の体の中を駆け巡っている。熱くて熱くて、たまらない。
「イきそう?」
尋ねられ、獄寺は何度も頷いた。コクコクと首を縦に振ると、掴んだままの綱吉の腕にいっそう強く縋りつく。
「あ、もう……」
出る、と獄寺は思った。熱い塊が竿の根本に集まって、ぐん、と凝るのが感じられた。背筋を駆け抜ける電流のような快感に目を閉じ、大きく息を吸い込む。
同時に体の中の綱吉の性器が、獄寺の深いところを大きく突き上げた。
ヒッ、と獄寺の喉が鳴った。
体の筋肉という筋肉が強張ってしまったかのような感じがする。
獄寺はは、は、と呼吸を繰り返しながら、綱吉の頬に手を伸ばした。
獄寺が体を動かすと、結合部がグチグチと湿った音を立てる。綱吉の放ったものが早々と溢れ出してきているようだ。
「ねえ、十代目」
そう言うと獄寺は、体を折り曲げ、綱吉の顎先に軽くキスをした。
「俺、十代目のこと、好きです」
総檜の日本風の風呂場には似つかわしいとは言い難いシャワーがついていた。
獄寺はふぅん、と呟いてシャワーの栓を捻る。
すぐにちょうどいいぐらいのお湯が出てきて、獄寺は丁寧に体を洗い始める。体の中の残滓を掻き出すのは辛かったが、コンドームもつけずにしてしまったのだから仕方がない。
必死になって獄寺が尻の間で手を動かしていると、綱吉が脱衣所に入ってきた。
「手伝おうか、獄寺君」
「大丈夫です」
手伝う気が本当にあるのか怪しいものだと思いながら獄寺は、丁寧にその申し出を辞退する。
体を重ねるようになってわかったのは、綱吉がひどく意地悪な時があるということだ。
しかもその意地悪すらも彼は、コミュニケーションのひとつとして利用している。綱吉のことだから計算してやっているわけではないのだろうが、獄寺にしてみればあまりいい気はしない。
「そう? じゃあ、一緒に入ってもいい?」
さっとシャワーを浴びるだけだからと綱吉は言う。
先ほどから風呂場の床にへたりこんでいる獄寺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「は……い」
誘っていると取られるだろうか?
後始末をしている獄寺の姿を綱吉は、みっともないと思うだろうか。それとも、もっと他のことを思うだろうか?
シャワーのヘッドを握りしめたまま、獄寺は入り口へと視線を向ける。
引き戸になった風呂場のドアが開き、綱吉が入ってきた。
タオルで前を隠しただけの姿で綱吉は風呂場に入ってきた。
「大丈夫? その……俺が言うのもなんだけど、体、辛くない?」
尋ねられ、獄寺は首を横に振る。
「大丈夫っスよ、十代目」
そう言って獄寺は立ち上がろうとした。風呂の縁を掴むと腕にぐっと力を入れる。勢いよく立ち上がったところでクラリと目の前が薄暗くなる。
「あ…──」
しまったと思ったところで、綱吉の体に抱き込まれていた。
「大丈夫じゃないだろ」
と、綱吉は獄寺の頭を拳骨で軽くコツンとする。
「ほら、掴まって」
抱き込んだ獄寺の体をしっかりと支えた綱吉は、湯船に獄寺をつからせた。
「お湯、熱くない?」
尋ねられ、獄寺は「はい」と頷いた。照れ臭いのは、一瞬、綱吉が妙に格好良く見えたからだ。
獄寺が見ている前で綱吉は、さっとシャワーをかぶって髪と体を洗った。泡を流してしまうと湯船につかる。二人分の体積で、溢れたお湯がざあ、と浴槽から流れた。
「こうやって二人でお湯につかるの、って、初めてだっけ?」
ポソリと綱吉が呟く。
「……はい」
恥ずかしくてたまらない。他の守護者たちと一緒になら湯船につかったことはある。あれは確か、未来の世界でのことだ。だから二人きりというのは、これが初めてのことだ。
「少しずつ、初めてがなくなっていけばいいね」
綱吉はそう告げるとニコリと笑う。
無邪気な笑みにつられて、獄寺も口元に笑みを浮かべた。
風呂からあがると二人は、使っていないほうの布団に潜り込んだ。
互いに体を寄せ合い、相手の体温とにおいを感じながら眠った。
たまにはこんな時間もいいなと、うとうとしながら獄寺は思う。疲れたのだろうか、綱吉はすでに眠っている。獄寺は手を伸ばすと綱吉の頬に手をあてた。
チュ、と音を立てて綱吉の首筋にくちづける。
石鹸のにおいがしている。少し湿った綱吉の髪の毛に指を絡めると、獄寺は今度こそ目を閉じた。
鋭く甲高い鳥の声で目が覚めた。
あれはヒヨドリの声だろうか。
目を開けると、まだ早い時間なのだろう、障子の向こうは薄暗かった。
もぞもぞと獄寺が体を動かすと、綱吉の腕がくい、と腰に回される。密着するように体を引き寄せられ、獄寺はおとなしく綱吉にしがみつく。
「……今、何時?」
寝ぼけているのか、ボソボソと綱吉が尋ねてくる。
「まだ早いですよ、十代目。もう少しこうして寝てませんか?」
獄寺の言葉に安心したのだろうか、綱吉はぐいぐいと頬を寄せてくる。
「ずっとこうしていたいな」
言いながら綱吉の手が、獄寺の尻を這う。いやらしく指が動き、着ていた浴衣の上から尻の窄まりをくい、と確かめられる。
「ちょっ、十代目!」
慌てて獄寺が体を離そうとすると、綱吉の指遣いはますますエスカレートしてくる。
「十代目、寝ぼけてるんですか? それとも、わざとですか?」
尋ねると、「寝ぼけてるだけだから」と言い訳がましく綱吉は返した。
そんなわけがないと思いながらも獄寺は、おとなしく綱吉に抱きしめられている。
「チェックアウトになるまでこうやって寝てようか」
不意に、切羽詰まったような硬い声で綱吉が耳元に囁きかけた。
身構えた状態で獄寺はそっと綱吉の顔を覗き込もうとする。いったいどんな表情をして、こんなことを口にするのだろうか。
「それとも、俺と一緒にもう一泊してくれる?」
なんと自分に都合のいい嘘を綱吉はついてくれるのだろうか。耳に心地よく響く綱吉の声に、獄寺は泣きそうになった。
「また、そんな冗談を」
獄寺が言うのに、綱吉はフフ、と小さく笑う。
「本気なんだけどね」
チュ、とこめかみにキスをされた。それから、額にも。
「もう一眠りしたら、朝食を食べに行こう。和食がおいしいんだ」
朝食の後は観光巡りに出かけようと綱吉は言った。獄寺はその言葉の一つひとつに頷き、相槌をうった。
そのうちに二人ともまたぞろ眠気がぶり返してきたのか、どちらからともなくうとうととし始める。
静かで穏やかな、そんな秋の一日がゆっくりと明けていく──
END
(2010.10.19)
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