『Private Birthday』
S×Z ver.
真夜中の月はオレンジ色をした十六夜の月だった。
ホテルの一室でサンジに抱かれながら、ゾロは天窓から覗く月を見ていた。
オレンジ色の、狂気の月。どす黒い色が混じって、禍々しいまでの光を放っている。
「ぁっ……」
ピクン、とゾロの背がしなる。
まだ胸の尖りに口付けられただけだというのに、それだけでゾロの性器は固く勃起していた。
「もう、こんなになってんのか?」
口元に薄ら笑いを浮かべてサンジが言う。
オレンジの月明かりの下でゾロは、少しふて腐れてサンジを見つめた。
キスは、これまでにも何度もした。
仲間たちに隠れて、甲板の物陰や格納庫で互いの性器を触り合ったこともある。
もちろんセックスもした。船内でも、船外でも。
しかしホテルでの情事は、初めてだった。
部屋に入ってからそろそろ一時間にもなろうというのに、いつまで経っても気恥ずかしさを払拭することができない。ホテルの部屋に足を踏み入れた直後からゾロは戸惑いを感じていた。いつもとは違う空間が、妙な恥ずかしさを呼び寄せてしまう。こんなことは初めてだ。
「集中しろよ」
小さく笑いながらサンジが、ゾロの腹筋をペロリと舐める。
さらさらとした金髪に指を絡めると、ゾロはくい、と引っ張った。サンジが顔を上げた。じっと自分を見つめる焦げ茶の瞳に気付くと、目線は外さずに、そのまま舌先でちろちろと肌をなぞり上げていく。
「せっかくの誕生日だから、ってんで奮発したんだぞ。素直に喜べ」
と、鷹揚に、サンジ。
ゾロはもぞもぞと上体を起こすとサンジの顔をまじまじと見下ろした。ほんのりと頬が熱いのは、照れているからだろうか。
「お前……恥ずかしくないのか、こういうトコって。なんか、ヤルためだけに来ました、って感じがしねぇ?」
言いながらもさらにゾロは顔を赤らめていく。
きょとんとした顔でサンジはゾロを見返した。
今までだってセックスはさんざんしてきたけれど、こんなにも困惑しているゾロは初めて見たような気がする。明るいところで見たならきっと、首まで真っ赤になっているのだろうかと、サンジは素早く考える。
「いいねぇ、擦れてないのって」
そう呟いて、サンジはにっこりと口元に笑みを浮かべた。
ベッドの上で向かい合い、抱き合う。
これまでにも何度もした体位のはずなのに、何故だかゾロは恥ずかしくてサンジの首にしがみついていた。
「下向けよ、ゾロ」
くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、サンジが言う。
サンジのものが自分の中へと入り込んでいく部分が見えるような気がして、ゾロはなかなか下を向くことができないでいた。
「なあ、見ろって。お前の、こんなに溢れてる……」
クスクスと笑いながらサンジは、ゾロの亀頭を親指の腹で優しくなぞった。
「あっ……あぁ……」
ぎゅっ、とサンジにしがみつくようにしてゾロが声を上げる。
結合部がヌルヌルして、気持ちが悪い。身体の向きを変えようとしてゾロが足をごそごそとさせると、自然と尻の筋肉が締まった。
「痛っ……きつすぎだ、クソっ」
低く声を洩らすと、サンジはゆっくりと身体を揺すった。前後に揺らしてゾロの身体の奥深くを抉ろうとすると、耳元で掠れた甘い声が響く。
「こういうのもいいな」
筋肉質なゾロの背を抱きしめて、サンジが言った。
「バースデーエッチっての? 今まで、レディたちにせがまれてた時は当たり前みたいに思ってたけどよ」
言いながらもサンジの指は、ゾロの先端を扱いている。精液の滲む割れ目の部分をくりくりとすると、ペニスが魚のように跳ねた。
「く…ぁっ!」
サンジの肩を掴んだゾロの手に、不必要な力が入る。
「お前みたいな無神経でムードのかけらもないようなのを普段、相手にしていると、レディたちがあれだけバースデーエッチに拘っていたのがわかるような気がするよ」
喋りながらもサンジは、もう一方の手でゾロの竿の部分を握り締め、扱いている。強弱をつけて扱くと、それによってペニスの跳ねる度合いが違う。大きくひくついた時にはゾロの嬌声も大きい。
「完全個室なんだから、他の奴らに気兼ねする必要もない」
と、サンジはゾロの首筋に唇を落とす。甘噛みすると、それだけでゾロは肩を震わせ、深い吐息を洩らす。
「……声、もっと出していいんだぜ?」
何しろ完全個室だからな、と言葉を続けたところで、ゾロの指がぎりり、とサンジの背中を引っ掻いた。
「い、いい加減にしろっ……」
眉間に皺を寄せたゾロがそう言うと、サンジはさも愛しそうにゾロの首から耳元にかけてをざらりと舐めた。
「そう恥ずかしがるなよ。せっかくの誕生日なんだから、たまには大人しく抱かれてろ、クソ剣士」
目を閉じてサンジにしがみつくと、身体中が燃えているような感じがした。
いちばん熱い一点を基点に、熱が身体の中を駆け巡っている。
股間に置かれたサンジの指の動きが早くなった。唇を噛み締め、ゾロは声を出すまいと堪えていた。
見られるのは、まだ、いい。サンジに痴態を見られることに関しては、もうだいぶん早い段階で諦めていた。相手も同じように恥ずかしいことをしているのだから、お互い様だと思っている。しかし声に関しては別だ。感極まってくるとゾロの声は、掠れた高い声になる。その声のトーンが甘ったれた女の声のようだとは決して思わなかったが、なかなかに恥ずかしいものがある。普通に喘いでいるだけのサンジにはきっと理解できないだろう。彼は……サンジはというと、突っ込んで、かき混ぜて、ただ腰を動かすだけだ。突っ込まれることに対しての抵抗感や、嫌悪感、そしてそこに入り交じる快感や期待や後悔は、ゾロ自身にしかわからない。
結局のところゾロは、自分だけが女のように乱れ、女のように喘がされるのが嫌なのだ。
しかしその気持ちをうまく言葉に言い表すことはなかなか難しいようで。
もちろん、サンジに抱かれることが嫌だというわけでは決してない。ただ、もどかしいだけなのだ。自分の気持ちをうまく言い表すことができず、それがために気持ちが堂々巡りをしてしまうことがたまらなく歯がゆいだけなのだ。
しがみついた手に力をこめる。ずり落ちないように、ゾロは両腕でしっかりとサンジの首筋につかまっている。
寄せては返す波のように、サンジの身体が動いている。
「はっ……あ、あぁ……」
ペニスを飲み込んだ部分が火傷しそうなほど熱く感じられる。感覚が研ぎ澄まされ、そこだけに意識が集中していく。
堪えなければ、とゾロは唇をさらにきつく噛み締めた。
そう思いながらも同時にゾロは、サンジの上で狂ったように腰を振っていた。もっと奥まで突いてくれと言わんばかりに、あれほど堪えていた嬌声を惜しげもなく洩らしながら。
結局、最後には乱れに乱れてイかされる羽目になってしまった。
ゾロにしてみればかなり不本意ではあったが、気持ちよかったのだから仕方がない。
ことが終わってからゾロは、隣でうとうとと眠りかかっていたエロコックの頭をつい殴ってしまった。
サンジは呆れながらも優しい笑みを浮かべた。それはゾロが見ていて恥ずかしくなるほど、幸せそうな笑みだった。
「今年はお前の隣にいることができてよかった」
少し掠れた声で、サンジが言う。
穏やかで優しいその声に、ゾロは小さく頷いた。
祝ってくれる人がいるということは、いいものだ。
ふと天窓を見上げると、月はいつしか白く輝いていた。冴え冴えとした澄んだ白い月を見ていると、モヤモヤと雲がかかっていた心の中が晴れ渡っていくようだ。
ゾロはそっと身体を起こすと、サンジのこめかみに軽くくちづけた。
「お前が隣にいてくれてよかった……」
──微かな囁きは、寝息を立てて眠るサンジの耳に届いただろうか?
END
(H15.10.19)
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