秘密を、ひとつ

  ひとつだけ、秘密を知っている。
  他の連中が知らないような、サンジ一人だけの小さな、小さな秘密だ。
  たとえば、彼とベッドを共にしている時。たとえば、彼の身体を自分のいいようにまさぐり、陵辱している時。彼が、サンジがこれまで褥を共にしてきたレディたちと同じように甘い嬌声をあげ、啜り泣くということを、サンジは知っている。
  燃えるように熱い身体でサンジを包み込み、霰もない格好を惜しげもなく目の前で晒す、彼。
  彼そのものがサンジの秘密で、おそらくこのことはサンジ一人だけしか知らないはずだった。
  サンジしか知らない、たったひとつの秘密。
  彼の甘く掠れた声も、筋肉質な身体も、そして知らない者が目にするとドキリとする胸の大傷さえもが、愛おしい。
  間違いなく彼は男だったが、今ではそのことすら、サンジが執着するための理由となっていた。
  たったひとつ。
  しかしそのたったひとつの秘密が、何よりも大きいのだ。



「んっ……」
  ビクン、と男の身体が跳ねた。
  緑色の短髪に、鍛えられた筋肉質な体躯。だらしなく口を開けて、赤い舌先をちろちろとサンジの舌に絡めてくる。官能的だと思うと同時に、その相手を自分の身体の下に敷きこむことの優越感を、サンジは感じていた。
「ここが、いいのか?」
  尋ねかけると、潤んだ瞳がじっとサンジを見つめてくる。
  数多のレディたちのようなふくよかな胸の谷間やきゅっとくびれたウエストはないけれど、それでも、サンジの求めに応じて身体を開いてくれる、愛しい彼。
  ぶっきらぼうで、しょっちゅう喧嘩をしている仲でもあるが、ベッドの中では驚くほど従順だ。
  恋だの愛だのといった感情とはまた違ったものに支配されて、二人は関係を続けている。
  別に、悪くはないだろう? と、彼が言ったことがある。
  もちろんだ。
  サンジだって、自分と同じ男を相手に、そういった生ぬるい感情を持ちたいとは思っているわけではない。
  この関係に名前は、必要ないのだから。



  男の足を大きく左右に押し広げ、サンジは股間のものにのしゃぶりついていった。
  青臭い牡のにおいが漂う陰毛を指に絡め、ペニスの先端を口に含むと、気持ちいいのか、男の身体がビクビクとしなった。
「…はっ……ぁ……」
  恥じらうでもなく、ありのままの姿をさらけだすというのは、これは、彼が男だからだろうか。
「そこ……っ」
  指の腹でマッサージするようにして、尻の穴の縁を広げてやると、彼の太腿の筋肉が緊張するのが感じられた。いや、全身の筋肉を固くさせて、声が洩れないように我慢しているようだ。
「ん? ここか?」
  のんびりとした調子で尋ねながらも、サンジが後孔に潜り込んだ指の第一関節をくい、と曲げると、彼の手がぎゅっ、とシーツを握りしめるところが目に入ってきた。
  調子に乗ってサンジは何度も彼の後孔を指で犯した。内壁を擦り上げ、前立腺の裏側を執拗に責め立てた。
  広げた彼の股の間で、勃起したペニスがたらたらと先走りを溢れさせ始める。サンジはそれを、舌先でペロリと舐め取った。



  サンジは後ろから、彼を貫いた。
  ベッドの上で四つん這いに獣の格好になった彼を犯すのは、女性とのセックスとはまた違った興奮をサンジにもたらす。
  ペニスの先端で内壁を強く擦り上げると、途端に彼の尻の締め付けがきつくなる。この締めつけだけで、イきそうになる。女性とは違う丸みのない尻と、子宮のないまっすぐな穴にサンジが執着してしまうのは何故だろう。
「っ……ぅ……」
  シーツに胸をつけ、腰だけを高くサンジの動きに合わせてつきだした彼の双丘はそれこそ筋肉質で、視覚的にも女性的なやわらかさなどこれっぽっちも見あたらない。それなのにサンジには、この身体にしっくりと馴染んでいる。こうなることが本望だったのだと言わなければならないのは、もしかすると、どちらかというとサンジのほうなのかもしれない。
「イけよ……早く、イけ!」
  苦しいはずなのに、精一杯身体を捻るとサンジのほうを振り返り、彼は訴える。鋭く睨み付ける榛色の瞳は野獣の眼差しで、目が合った瞬間、サンジは背筋にぞくりと何かを感じる。
  奥を目指してぐい、と内壁を擦ると彼の身体がビクン、としなった。背を丸め、堪えるような格好で尻の筋肉を締めている。
「あ、ああ……っ!」
  掠れた声は、何度聞いても男の声だ。
  それでもサンジは、やはりこの身体が愛しいと思った。



  ひとつだけ、秘密を知っている。
  彼と二人だけの共有の秘密。
  たったひとつだけの、大事な、大事な……──。



END
(H16.7.22)



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