『懲りない二人 2』



  男が門を潜ると、すぐに宿のドアが開いた。
「お泊まりですか?」
  宿の者が尋ねる。
  黙って頷くと、受付のようなところから痩せたネズミのような男が顔を出した。
「宿泊台帳に記帳してくださいまし、旦那」
  台帳に自分の名を記入するふりをしながら男は、素早く自分が門を潜るすぐ直前に入っていった二人組の名を確認した。
  目当ての名が記入されていることを確認してから、男は宿の者に言われた部屋へと上がっていく。階段を上がって、奥へ、奥へと廊下を進んだ突き当たりの部屋が男に割り振られた部屋だった。
「この階段だな」
  口の中で呟くと、男は足音を忍ばせ、宿の階段を上がっていく。
  どこかの部屋から、女の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。悲鳴のような金切り声をあげながらも女は、卑猥な言葉を並べ立てている。
「お楽しみの最中ならいいんだが……」
  半ばそうであることを願いながら、男は廊下を進んでいく。
  この宿は連れ込み宿ではなかったが、クリスマスイブということもあり、宿泊客は少々、気が緩んでいるようだ。どの部屋も全部というわけではなかったが、いくつかのドアの前からはお楽しみの声が洩れ聞こえてきている。
  男は慎重に足を運ぶと、いくつものドアを通りすぎた。



「あ、あぁ……」
  カクカクとサンジの身体が揺れている。
  ゾロが大きく突き上げた瞬間、サンジの身体は後方へとエビ反りに沈んでいく。
「んっ、あ……ふ……」
  ゾロの手が、沈み込むサンジの腰を掬うように抱いた。
「もうちょっと辛抱しろよ」
  そう言うと、ゾロはピストン運動を始めた。サンジの最奥に達するまでゆっくりと差し込むとは、先端が見えそうなところまで自分のものを抜き出そうとする。
  焦らすように、感じるように、わざと湿った音が響くように腰を動かした。
「ぁ……うぁ……」
  意識するよりも先に、サンジの後孔が収縮を繰り返した。ゾロを締め付け、奥へ奥へと飲み込もうとする。それに逆らってゾロが自身を抜き出そうとすると、サンジは身体を捩ってきついほど締め付けていった。
「ん、んっ……クソッ……」
  両手でシーツを握り締めたサンジの腰は、宙へと高く突き出している。先走りの液でドロドロになったペニスが天を突き、ピクピクと震えては新たな精液をあたりにポタリポタリと振りまいた。
  部屋の中に、青臭いにおいが漂う。
  汗と、精液の入り交じった二人のにおいがいっそう強くなったかと思うと、サンジの身体がベッドの上で大きく仰け反った。反動で頭がシーツに押し付けられ、ペニスが揺らぐ。
「あっ、あ、はぁあ……!」
  ぐっ、と頭をシーツの中に沈めて、サンジはイった。
  身体中の血が中心の一点に集まったような感じがして、ついで浮遊感に襲われた。射精の瞬間、ゾロのものがサンジの最奥を深く抉り、内壁を突き破りそうな勢いでぶつかってきた。



  まだ荒い息のままのサンジは、そのまま身体を捩った。
  ゾロのものが体内からずるりと抜け落ち、尻から太股にかけてが溢れ出た精液にまみれた。
「おい、まだ足りなさそうだな」
  じっとサンジの下半身を眺めていたゾロが、ぽつりと言った。
「……るせぇっ、クソマリモ」
  言い返しながらもサンジは、煽るようにゾロを見上げる。
  サンジが達した直後にゾロも達したはずだが、この男は何もなかったかのような顔つきでじっとサンジを見つめ返している。本当に淡泊なのか、それともこれが単なるポーズなのか、サンジには今ひとつよくわからずにいる。
  じっとしていると、不意にドアの向こうで、人の気配がした。
「んあ?」
  一戦交えた後の一服をまだ吸っていないのにと思いながらも、サンジの身体中の筋肉が、さっと緊張した。
  ここでじっとしていろ──と、ゾロが眼差しだけで語りかける。頷き、サンジは肘をついて上半身をベッドから浮かせた。
  ゾロはというと、いつの間に身につけたのか、下はズボン、上半身は裸のままといった格好で刀を手に忍び足でドアのほうへとにじり寄っていくところだった。
  ドアの向こうの気配はやはり、気のせいではなかったのだ。



  男はドアの向こうから部屋の様子を窺っていた。
  切れ切れに聞こえてくるのは、どう考えても男のものとしか思えない低く掠れた喘ぎ声が、ふたつ。
  ドアの鍵穴から中を覗き込んでみるのだが、何も見えない。部屋の中の様子を盗み見ることは出来ないようになっているらしい。
  それでも、部屋の中で行われているだろう行為は何となく予測することができた。セックスだ。男同士でセックスをしているのだ。
  考えてみると、あり得ない話ではなかった。女性がいない船上の生活の中で、同性にしか興味を持たない輩が出てくるのはそう珍しいことではない。海軍の中にも、そういった男同士での特殊な情事を好む者がいた。もっとも、そういった特殊な情事は規律の中で禁じられているはずだった。それに最近では、女であっても船に乗り込む機会が増えてきた。必ずしもそういった特殊な情事ばかりが船上で交わされているというわけでもないだろう。
  尚も男が中の様子を窺っていると、突然、キン、という甲高い金属音が響いた。
  気付いた時にはドアごと、男の左のもみあげのあたりの髪がハラハラと床へ舞い落ちるところだった。
「うひぃっ……」
  切られたドアが、支えを失い頼りなく倒れる。
  男は慌ててその場から逃げだそうとしたが、足は動いてはくれなかった。ゾロの放つあまりにも強い殺気に、腰が抜けてしまって身動き一つ取ることが出来ないのだ。
「よう、デバガメ野郎。こんな時間にご苦労なこったな」
  ゾロが言った。
  男はカクカクと頭を横に振る。何とか身体を動かすことができたと思った途端に床に盛大に尻餅をついてしまい、そのまま這いずるような格好で後方へ下がろうとしている。無様だったが、逃げきることができるのならば、それでも構わなかった。
「──それで、何のつもりでこんなところへやってきたんだ、ああ?」
  尋ねられ、男はまた首を横に振った。






To be conrinued
(H15.12.25)



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