『ここからはじめよう 2』
Z×S ver.




「やめ…ろ……」
  拒否しようとしたが、サンジの声は掠れて弱々しかった。
  ゾロの唇が触れた手首が、熱い。
  ほんの少し触れただけなのに。
  ふと、上目遣いにじっとこちらを見つめるゾロの視線と目が合った。
  身体を引こうとしてサンジが後ずさろうとすると、ゾロの空いている方の手が腰を引き寄せにかかる。
「おい……おい、クソマリモ!」
  慌ててサンジは身体を放そうとした。が、どう抑え込まれているのかわからないが、ゾロの馬鹿力のせいで逃げようとしても逃げることができない。
「放せ、筋肉バカ。オロスぞ」
  言うが早いかサンジの膝は、力一杯ゾロの股間を蹴りあげていた。
「ぐがっ……」
  情けない声がゾロの口から洩れる。
  サンジはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら、言い放った。
「さすがの全身筋肉男もソコだけは鍛えられなかったようだな」
  甲板の上で中腰のまま悶え苦しむゾロは、目尻に涙を浮かべてサンジを睨みつけている。
「俺にだって男の都合、ってのがあるんだ。覚えとけ」
  そう言ってしゃがみ込むとサンジは、いまだに涙目で痛みを堪えているゾロの頬を両手で包み込んだ。
「さすがにこれは、大っぴらにはできないからな」
  と、ゾロの鼻の頭にキスを落とす。
「せっかくの誕生日なんだから、つまんねぇことで意地を張るな。いつもみたいに楽しんでりゃいいんだよ、クソマリモ」



  その日、宴会は夜半過ぎまで続けられた。
  賑やかだった。
  宴会の間中ルフィは食べることに夢中で、時折思い出したように皆の会話に割り込んでくるだけだった。ウソップの饒舌はいつもの五割り増し以上だったし、ナミはいつになくにこやかだった。サンジは皆に得意の料理を披露し続け、ゾロはとっておきの酒を好きなだけ飲むことができるというので始終機嫌がよかった。
  五人で…──そう、彼らはまだ、グランドラインにも到達していなかった──飲んで、騒いで、食べて、また騒いで。
  明け方、心地好い朝の風にゾロは呼び起こされた。目をあけて、まるでゴミ溜めのような変わり果てた様子のラウンジに、小さく笑う。まさかここまで騒ぎ倒したとは。酔っていないつもりでも、仲間たちの雰囲気に、少々流されてしまったようだ。
  あたりを見回すと、サンジが机に突っ伏して眠っていた。他の連中はどうやら、自力で部屋に戻ったらしい。
  テーブルの足下に放り出されていたサンジのジャケットを拾い上げ、ついているかどうかもわからないような埃をたたき落とした。サンジはまだ眠っている。腕の上に頭を乗せて眠るサンジの、規則正しい微かな寝息が聞こえてくる。ゾロはジャケットをサンジの肩にかけてやると、そのまま甲板へと出た。
  まだ夜が明け切らないのか、空は灰色をしている。
  海を横目に伸びをすると、凝り固まっていた筋肉がほぐれていくのが感じられた。腕を軽く振り回すと、関節がポキポキと鳴った。
  ゾロは一つ、歳を取った。



  しばらくぼんやりと海を眺めていた。
  朝焼け混じりの雲の中から、暁光が溢れ出してくるのが見える。
  もう一度、大きなあくびと一緒に伸びをした。
  ラウンジのドアの軋む音が聞こえた。背後でサンジの気配がする。何か言葉をかけなければと思った途端、背中から抱きつかれた。脇の下から両手を差し込み、腹の辺りでぎゅっ、と腕を組んでいる。サンジの額が、コツン、とゾロの背に押し当てられた。
「──…一度しか言わないから、耳の穴かっぽじってよく聞いてやがれ」
  低く、くぐもった声でサンジが言った。
  何を言われるのだろうかとゾロが身構えていると、背後のサンジがすう、と息を吸い込むのが感じられる。
「一日遅れになっちまったけど、誕生日おめでとう」
  それなら……と、ゾロは密かに思った。
  その言葉なら、昨日の内に何度も聞かされている。仲間たちと一緒になって、ほろ酔い加減のサンジから直接、耳にたこができるほど聞かされたように思う。
  黙っていると、サンジの膝頭がゾロの膝の裏側へガッ、とぶつかってきた。
「てめぇの男の都合ってのは、こんな時にも関係あんのか?」
  そのまま黙りを続けていると、二度、三度と膝の裏を蹴り上げられる。
  まるで幼い子供が駄々をこねている時のようで、ゾロは知らず知らず口元に笑みを浮かべていた。
「俺の男の都合じゃあ……」
  言いながら、どう言葉を続けようかと考えてみる。そろそろ、言葉だけではない別のものが欲しくなってくる頃だ。おそらく、二人とも心の中では同じことを考えているはずだ。はっきり言ってしまおうか、それともはぐらかしてしまおうか。どうしようかと思案していると、力任せにサンジがしがみついてきた。
「次の港に着いたら、ホテルに行こうぜ」
  少し上擦ったサンジの声が、ひんやりと心地好い朝の風に流されていく。
「おう。期待してるぜ」
  ゾロは一言、そう返した。
  それから二人して、誰かの足音が聞こえてくるまでずっとそうやって寄り添っていた。






END
(H15.11.19)



ZS ROOM              2