こちらのほうが煽られそうだと薬研は思った。
自分を見つめる春霞のとろんとした眼差しが、薬研に無言で先の行為をねだっている。
お大事処から手を離すと薬研は、自分の上に乗るようにと春霞に言った。
腹の上に乗らすのはこれが初めてなわけではなかったが、慣れているわけでもない。膝立ちになった春霞はおずおずしながらも薬研にいっそう近付いてくる。
「力抜いて、ゆっくりでいいからな」
褥の上に寝そべった薬研の腹に、恥ずかしそうに春霞は跨った。
薬研は、自身の竿を手で軽く何度か扱いた。竿の先端にはすでに先走りが滲んでいる。亀頭のあたりを指で擦ってぬめりを広げておいてから、春霞の腰に手を当てる。
「尻、上げてみな?」
そう言うと、くい、と春霞の腰を引き上げた。春霞は素直に薬研に言われた通り、尻を持ち上げる。
その間に薬研は、素早く自身の先端を春霞のお大事処に擦り付けた。
「いいぞ、春霞」
薬研の言葉と同時に春霞は、ゆっくりと尻を落としてきた。蜜壺の入り口が薬研の竿の先っちょに触れたかと思うと、ずぶずぶと飲み込まれていく。指で擦っただけだというのに、春霞のそこはしっとりと潤んでいた。柔らかな肉の狭間に自身の竿が飲み込まれのところは、何度見ても興奮する。
「ん、ぅ……」
春霞はくぐもった声を上げた。
薬研は春霞の体に手を這わせたまま、あちこちを愛撫してやった。
なだらかな曲線を描く尻を撫でたり、脇腹を撫でたり……それからお大事処にも時々は手をやって、竿が中にしっかりと挿入されていることを確かめながら、春霞の腰を自分のほうへと引き寄せてやる。
「ぁ……」
ぬちゅん、と湿った音がして、竿が春霞の中からズルリと抜け出す。
「焦らすなよ、春霞」
抜け出した自身の竿を掴み直すと薬研は、やんわりと春霞を睨み付けた。
「ほら、もう一度やり直すんだ」
薬研の言葉で春霞は、再び尻を上げた。
薬研が支え持つ竿に焦点を合わせると、ゆっくりと腰を落としてく。蜜壺の縁が薬研の先端に触れ、ゆっくりと時間をかけて飲み込んで……ずぷっと音を立てて、春霞は屹立をすべて咥え込んだ。
「っ、ぅ……」
薬研は眉間に皺を寄せたまま、微かに笑った。
「うまいぞ、春霞」
そう言うと手を伸ばし、春霞の胸に触れてやる。硬くしこった乳首を指の腹で摘まみ上げ、やわやわと引っ張る。そうすると薬研の竿を包み込んだ春霞の蜜壺が、きゅうきゅうと屹立を締め付けてくる。奥へ、奥へと誘うように、蠕動を繰り返すのだ。
「ん、ふ……」
薬研の腹に手をついて、春霞はもじもじと腰を揺らした。
緩く唇を開けて、しかつめらしい顔をしながらもぎこちなく腰を揺らす様子が可愛らしい。
「ぁ……熱い……」
唇の端から、小さな声が洩れた。
潤んだ眼差しで春霞は薬研を見つめてくる。
「そうか? でも、お前の中も熱いぜ」
薬研はそう返すと、下から緩く突き上げてやった。
「ひ……んっ」
波打つ薬研の腹の上で爪を立てないように拳をぎゅっと握りしめた春霞の手を握ってやると、指を絡ませてきた。
「薬研……薬研、手、繋いでて……」
上擦った声で春霞が懇願する。
「ああ。握っててやるよ」
絡めた指に力を入れると、春霞の中がまたしてもきゅう、と薬研の竿を締め付ける。
「んぁっ……あ……」
か細い声で小さく啼くと、春霞はわずかに息を乱しながら腰を振り始めた。蜜壺に竿が出入りする様が薬研に見えるように、大きく腰を上げたかと思うと、深く根本まで飲み込んでみせた。
透明な蜜がたらりと滴り、春霞の太腿と薬研の腹のあたりを濡らしていく。
「薬研っ……」
握りしめた指にさらに力を入れると、春霞の内側が腹の中に埋もれた薬研の竿をきつく締め付けてくる。
「薬研、も……」
低く掠れた声で春霞は「イくっ」と口走った。
腹の内側の筋肉全体で薬研を締め付け、奥深く飲み込もうとする動きを何度も繰り返しながら春霞は果てた。くたりとなった春霞の体が胸にもたれかかってくるのを、薬研は上体を起こして支えてやる。
「たっぷり注げばややこが出来るかな?」
片手で春霞の肩を抱きしめて薬研は尋ねる。
春霞は力の入らない手で薬研にしがみついていく。
「だめ……まだ、ややこは……」
言いかけた春霞の唇を、薬研は唇で塞いだ。チュ、と音を立てて唇を啄み、それから舌先で唇をチロチロとなぞる。
「っ、ん……ん」
春霞は口を開けて舌を差し出してきた。薬研の舌に吸い付いて、ジュルジュルと音を立てて唾液を啜った。
そうしながらも春霞の中は、妖しく蠢いている。
くちづけの合間にも薬研は、春霞の腰を掴んで下から緩慢な動きで突き上げてやった。
「あっ……あ……」
びくびくと春霞の体が痙攣したように大きく震える。
対面で座り合った姿勢のまま何度も腰を揺らして情を交わし合うと、薬研の背中に腕を回し、しがみついたまま春霞は果てた。
くちづけると春霞からはほんのりと花の香りがした。
まるで花に抱かれているようだと薬研は思った。
「春霞、俺っちもてイッていいか?」
柔らかな頬に手を当てて尋ねると、春霞はコクリと小さく頷いてくる。
頭がぼーっとなっているのか、春霞の瞳は先ほどからトロンとしていた。薬研の言葉をどのくらい理解しているのだろうか。
「薬研……大好き……」
呂律の回らない状態で、春霞はそう告げた。
「嬉しいねぇ。俺っちも愛してるぜ」
言いながら薬研は、繋がりを解かないまま春霞の体を褥の上に横たえる。
春霞の白い足を腕にひっかけると、薬研は腰を使いだした。
ズルズルと竿を浅いところまで引きずり出し、それからゆっくりと奥へと押し込んでいく。蜜壺からは春霞の蜜と薬研の先走りの混ざり合ったものが滴り落ちてきて、褥の上をぐっしょりと濡らしている。 内側の肉がしとどにぬめりを帯びて薬研の竿を包み込みながら、きゅうきゅうと蠕動を繰り返す。締め付けながら奥へと誘い込むような動きをして、薬研に射精を促している。
「薬研……」
春霞は手を伸ばすと、薬研の体に触れた。
白くてほっそりとした指が、腹のあたりを彷徨ったかと思うとゆっくり心臓のあたりへと這い上がっていく。
「薬研、抱きしめて……ぎゅって、して……」
甘えるように囁かれ、薬研はぐい、と春霞の中を突き上げた。
「んっ、は……ぁ……」
両足を腕にひっかけたままの体勢で、薬研は春霞の上に体を伏せた。ピタリと肌をくっつけると、胸のあたりに春霞の乳房が触れてくる。先が尖って硬くなった乳首に肌をなぞられ、薬研は小さく呻いた。 「春霞……」
名前を呼ぶと、春霞は嬉しそうに微笑んだ。
薬研の首の後ろに手を回して、ぎゅっと抱きしめてくる。
力強い律動を刻むと、春霞の蜜壺はさらに薬研の竿を締め付けてきた。
「あ、あ……」
薬研、薬研、と名前を何度も呼ばれて、薬研は幸せな気分になる。
大きく腰を突き上げて、耳元で「春霞」と囁けば、春霞の体が大きく震える。締め付けがさらに強まり、薬研は腰の熱が膨れ上がるのを感じた。
「春霞、もっと名前を呼んでくれ」
呟いて薬研は、春霞の耳たぶをかぷりと噛んだ。
「はっ、ぁ……あ、あ……っ」
ヒクッ、と薬研の腹が大きく波打った。
春霞の中にあたたかな迸りを放ちながら、蜜壺をさらに擦り上げる。春霞も必死で薬研にしがみついてきた。蜜壺が薬研の竿を包み込み、締め付けたかと思うとヒクヒクと震える。
薬研が何度かに分けて白濁を放つと、春霞は褥の上でぐったりとして四肢を投げ出した。乱れた髪が頬にかかり、なんとも艶めかしい。
「……薬研」
掠れた声が、薬研を呼ぶ。
甘い花の香りが薬研の鼻先をくすぐり、ふわりと霧散していく。
「春霞、ややこはできねえか?」
尋ねると、両腕でがば、と抱きしめられた。
小さく笑って春霞は薬研の耳元に唇を寄せる。
「そんなすぐにはできないわよ。おバカさんね」
優しい声でやんわりと咎められ、薬研は笑った。
「できたかと思ったんだけどなあ」
言いながら、春霞の唇が頬に触れるのを感じた。
柔らかな唇が、薬研の頬に、鼻先に、そして唇に触れてくる。
「大好きよ、薬研。ややこができなくても」
からかうようにそう言うと春霞は、幸せそうに微笑んだ。
ほのかににおう甘い花の香りに、薬研も柔らかな笑みを返した。
(2015.8.28)
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