ソトバの唇がゆっくりとボタンの体を這い降りた。
チュ、チュ、と音を立てながらソトバの頭は下へ、下へとさがっていく。時々、肌をやんわりと吸い上げられ、ボタンの身体はいつしか火照ったように熱を持っていた。
「ぁ……」
ブルッと身体を震わせて、ボタンは手を伸ばした。
ソトバの髪に指を絡め、慈しむように髪を掻き回す。
「あ、ぁ……」
ピリピリと痺れるような感覚がボタンの身体を駆け回っている。唇が下腹部をなぞり、節くれだった指が淡く繁った場所を優しく撫でてくる。
「や……」
そんな場所は、今まで誰も触れたことはない。
それなのにソトバは、躊躇うこともなく触れてくる。
手を伸ばしてソトバの手を掴もうとすると、軽く振り払われた。
「駄目ですよ、ボタン様。俺とこういうことをしないと、ちゃんとした婚姻関係を結ぶことはできないのですよ」
そう告げるとソトバは、一度は振り払ったボタンの手を優しく掴み上げる。
「これでも握っててください。すぐにもっと気持ちよくなります」
くちゅ、と手の中で音を立てたのは、ボタン自身のペニスだ。硬くなって、先のほうが少しぬるついている。
「あ、やっ……!」
慌てて手を引っ込めようとすると、ソトバの手が上から重ねられた。
「そのまま」
低く囁かれ、重ねた手ごと竿を上下に扱かれる。
ソトバのてのひらが先端をくりくりと撫でると、くちゅ、くちゅ、という湿った卑猥な音が耳に届いた。ボタンは羞恥に顔を赤らめた。こんなふうに扱われるのは心外だが、嫌ではないのも事実だった。
心臓が張り裂けそうなほどどきどきして、苦しいぐらいだ。恥ずかしくて、気持ちよくて、思わずボタンは小さく喘いだ。
「自分でしてみせてください、ボタン様。今やったとおりにすればいいだけですから、難しくはないですよね?」
ほら、とソトバに促され、ボタンはぎこちない手つきで自身の性器を扱き始めた。
ゆっくりと手を上下に動かし、零れた先走りを塗り込めるようにして竿をなぞる。
腹の底が熱くなって、むずむずとした感触が全身を這い上がってくる。こらえきれずに足をもぞもぞとさせると、ソトバの体がボタンの足の間に割り込んでくる。
「ん、あ……」
咄嗟に膝を閉じようとすると、駄目です、とばかりにソトバの力強い手がさらに膝を押し広げられた。足首を掴みあげられ、ボタンは身を捩って抵抗しようとしたが、ソトバの手からはこれっぽっちも逃れることはできなかった。
「白くて綺麗な肌ですね。傷跡ひとつない……本当に綺麗な肌です」
膝頭から裏側のほうへとかけてソトバの唇が触れていく。煽るように、くぐもった熱がボタンの体の中を駆け抜ける。
「や……っ」
ずくん、と手の中で性器が硬度を増した。痛いほどに張りつめて、ボタンの身体を熱くする原因はおそらくこれなのだろう。
「ソトバ、もう……」
啜り泣きながら声をかけると、ソトバは微笑みかけてくる。
「まだですよ、ボタン様」
掠れた声で囁くソトバの口元が一瞬、艶めかしく色めいて見えた。
「……っ」
ぐち、とボタンの手の中で先走りが湿った音を立てる。
「いや……もう、嫌だ……」
啜り泣いて懇願するボタンの膝に、もう一度ソトバは唇を寄せた。チュ、と音を立ててくちづけると、今度はボタンの足を大きく左右に広げて、その間へと顔を近付けていく。
「少しだけ我慢してくださいね、ボタン様」
言うが早いかボタンの太腿の付け根にソトバの唇が押し当てられる。チュク、と音を立てながら唇と舌が尻のほうへと近付いていく。
「あっ……だめっ、ソトバ!」
空いているほうの手でソトバの髪を掴むと、ボタンの指に赤い髪が絡まった。くい、と引っ張ると、尻の狭間にソトバの熱い吐息がかかってくすぐったかった。
「ん、ゃ……」
そんなところを見られるのも触れられるのも恥ずかしいのに、ソトバはあっという間にボタンの身体を隅々まで検分し、触れていく。
「嫌ですか? 俺に触られるのが、そんなお嫌ですか?」
尋ねられた瞬間、ボタンは何を言われているのかわからなかった。
ぽやんとした表情でソトバを見つめ返すと、まだ髪が絡まったままの指をくい、と引く。
「ソトバ……好き……」
掠れた声でそう呟くと、ソトバは安心したように微笑んでくれた。
「じゃあ、もう少しだけ我慢してください、ボタン様」
ソトバの指は節くれ立って、少しがさついていた。
ボタンの尻の狭間、固く窄まった部分はソトバの舌と指とによって時間をかけて解された。唾液を零してぬめりを持たせると、指と舌とで丹念に襞を潤していく。そんなことを何度も繰り返されているうちに、ボタンの身体は前も後ろもぐずぐずに溶けてしまいそうなほど気持ちよくなっていく。
湿った音は、ボタンの手が立てる先走りを塗り込める音なのか、ソトバが後孔を解すために立てる音なのかももう、わからない。
「ソトバ……ソトバ……」
ぶるっと大きく震えると、ボタンはああ、と微かに声を上げる。
気持ちよすぎて、どうにかなってしまいそうだった。
それなのにソトバは、さらなる快感をボタンに与えようとする。大きく広げた足の間に腰を寄せて、解れてしとどに湿ったボタンの後孔にソトバの腰を押し付けてくる。
「ボタン様、お嫌でしたら言ってください。すぐにやめますから」
辛そうな顔をしながらソトバが囁く。
押し当てられた性器の硬さ、大きさに慄きながらもボタンは首を横に振った。
「大丈夫だから……」
だから、早くひとつになりたい。ソトバの性器に貫かれ、彼のものになりたいとボタンは思った。そうして自分もまた、ソトバのものになるのだ。
「力、抜いててください」
そう言うとソトバは、ゆっくりと腰を推し進めてくる。
ぬぷりと突き立てられた性器が、ボタンの襞を掻き分け、押し広げながら、狭い筒の中を奥へと進んでくる。
「あ、あ……っ!」
背を反らし、ボタンは声を上げた。はしたないと思いながらも声は止まらなかった。痛くて、苦しくて、辛いばかりでたまらない。
中に潜り込んだソトバの性器がボタンの内壁を擦り上げ、奥を突き上げる。
何度も奥を目指し、引き抜かれ、ボタンは犯され続けた。
「ひっ……ん」
熱い塊がボタンの中を行ったり来たりして、擦り上げてはさらなる奥を目指す。揺さぶられ、ボタンはどこからが自分で、どこからがソトバの肉体なのかもわからなくなってしまっていた。それほどまでに初めての交わりは、衝撃的だったのだ。
「……気持ちよく、ない……ですか?」
途中、動きを止めてソトバが尋ねてきたのを覚えている。
「よく、わからない」
ボタンはそう返した。だけどその頃にはボタンは、自分の中を犯すソトバの存在に愛しさを感じ始めていた。擦り上げながらソトバの鰓の張った部分がボタンの奥を突き上げると、じん、と痺れるような感覚がひろがって、腹の中が燻るような熱さに満たされる。身体はどんどん熱くなっていって、そのうち、ボタンを苛んでいた疼痛ははっきりとした快感へと変化した。
その境に、ボタンは気付かなかった。
深いところを何度も突き上げられ、眉間に皺を寄せたソトバが腰を大きく動かしているのを眺めているうちに、愛しさが込み上げてきた。この男は、こんなにも必死に自分のことを愛してくれているのだと思うと、嬉しくて愛しくて、たまらなくなってくる。
それまで性器を握ってソトバに言われた通り扱いていた手を放すと、目の前の男の体をぎゅっと抱きしめる。
その瞬間、ソトバはひときわ大きくボタンの中を突き上げた。
「ん、あぁ……っ!」
きゅうっ、とボタンの中が締まり、ソトバの性器を包み込む。
ボタンの性器のほうが先に精を放った。二人の腹の間でヒクン、と大きく震えた性器が、白濁をまき散らす。
「っ……!」
次いでずん、と奥深くを擦り上げながらソトバの性器が膨張し、ボタンの内壁を生暖かいもので濡らしていく。
「……すみません、ボタン様。粗相をしてしまいました」
照れたようにソトバが告げた。
ボタンは小さく頷いて、いつまでもソトバの体を抱きしめていた。
(2015.1.14)
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