「久しぶりに会えたんですから、たまにはハルのことも構ってください!」
とかなんとか口にしたかと思うと、同い年の恋人はゴム毬のような勢いで飛びついてくる。慌てて避けようとするも腰の辺りをがっしりとホールドされ、ポニーテールにした髪のてっぺんが獄寺の鼻先で大きく揺らいだ。
気圧されて力を抜いた途端にぐいぐいと押し倒され、気がつくと獄寺は床の上に両手を放り出した格好のまま、仰向けに転がされていた。
「男の子同士で遊ぶのも楽しいとは思いますけど、ハルは獄寺さんの恋人なんですから。少しぐらい気を遣ってくれても……」
ブツブツと文句をこぼしながらもハルは、獄寺の腹の上に馬乗りになったまま熱心に手を動かしている。
獄寺のネクタイをシュルリとほどくと、次はワイシャツに手をかけ、ひとつずつボタンを外していく。
「ハルだって寂しいこともあるんですからね」
そう言いながらも、彼女の瞳は楽しそうにキラキラと煌めいている。
このところ任務、任務で恋人と会うこともままならず、煮詰まりそうになっていたところでの久々の逢瀬が、嬉しくないわけがない。
獄寺が嬉しいのと同じようにハルだって、きっと嬉しいはずだ。
自分の腹の上に座り込んだハルの太股をてのひらでなぞると、脇腹をはさんでくる彼女の膝に力がこもるのが感じられた。
「そっちだって嬉しいんだろ」
意地悪く笑って尋ねると、チュッと音を立てて唇を吸われた。
「獄寺さんこそ」
意地っ張りなのか、それとも負けず嫌いなのか。
獄寺の腹の上に馬乗りになったハルは、口元にハッとするほど艶めかしい女の笑みを浮かべた。
獄寺が手を伸ばすと、すぐにハルの手がその手を取った。互いの指と指とを絡ませて、ハルは獄寺の手を自分の口元へ引き寄せようとする。
獄寺の、すらりと長い指に唇を押しつけながらハルは、目を合わせてくる。まっすぐに獄寺を見つめる瞳がキラリと悪戯っぽく光っている。
「今日はゆっくりしていけるんだろ?」
「獄寺さんは? ゆっくりしていけるんですか?」
探るように尋ねられ、獄寺は口の端を小さく吊り上げて笑った。
「十代目が、今日、明日と休みをくださったんだ。たまにはゆっくりしろ、ってさ」
朝、綱吉と顔を合わせた途端に休暇を取るように命じられた。いつになく勢いのある言い方だったので、獄寺は言われるがままに二日間の休暇をることにしたのだ。
「……はひっ?」
獄寺の腹の上で、ハルが素っ頓狂な声をあげる。
「ツナさんなら、今日から京子ちゃんと二人でプチ旅行です」
きっぱりと言い切るハルの言葉には、信憑性があった。だいいちハルは、綱吉の恋人である京子と仲がいい。嘘をついているわけではないだろう。
それに、あまり考えたくはなかったが、朝からの綱吉の態度はいつになく不自然だったように思う。右腕である自分に綱吉は、京子とプチ旅行に出かけることを隠しておきたかったのだろうか。
「今頃、二人ともおいしいものを食べてるんでしょうね、きっと」
声の響きがどことなく羨ましそうに聞こえるのは気のせいだろうか。
「うまいもんぐらい、俺が食わせてやるよ」
つい、見栄を張って獄寺は口に出して言ってしまった。綱吉に旅行のことを教えてもらえなかったのが少し寂しく思えてのことかもしれない。
「獄寺さん、お料理できなかったですよね」
すかさずハルに返されて、獄寺はこめかみをピクピクとさせた。
いちいち嫌な言い方をするとばかりに獄寺は、ハルを軽く睨みつける。
「馬鹿か、お前は。デリバリーに決まってるだろ、デリバリーに」
綱吉に置いてけぼりを食らったのはショックだが、落ち込んでも仕方のないことだ。それに、せっかくもらった休暇だ、有意義に使いたいものだ。
ほっそりとしたハルの腰に手を這わせると獄寺は、ニヤリと笑った。
「だけどその前に、ヤることヤってからな」
獄寺の言葉にハルは、顔を真っ赤にしつつも大きく頷き返してくる。
期待されているのだと思うと、無性に頑張らなければと思えてくるから不思議だ。
まだ繋いだままだった手を引くと、ハルの上体が傾いできた。
「キス、してくれよ?」
低く囁くと、ハルのふっくらとした唇が、獄寺の唇の端に下りてくる。チュ、チュ、と啄んでは、すぐに離れていく。
「……もっと」
獄寺がねだると、今度は焦らすように時間をかけてハルは、恋人の唇を攻略し始めたのだった。
(2014.3.6)
END
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