StrawberryRed 14Ver.

  ビニールハウスの中は思っていたよりも温かく、誰かが出入りするためにドアを開けると、心地よい初夏の風がさーっと吹きこんできた。
  そのたびに、女の子たちのスカートがひらひらと大きくそよぐ。
  ダブルデートをしようと綱吉に誘われ、苺狩りに来たものの、さっきから獄寺の視線は別のほうに興味津々だ。
  同じように綱吉の視線は、ちらちらと京子のスカートの裾に向いている。
  風が吹くと、スカートがひらひらとそよぎ、めくれ上がる。その下はいったいどうなっているのだろうと、そればかりに男二人の興味は向いてしまい、もはや苺狩りどころではない。
「あ〜、ナニ見てるんですか、ツナさんも獄寺さんも!」
  不意に甲高い声が上がった。
  反射的に獄寺がハルのスカートの裾へと視線をやると、その拍子にふわりと悪戯な風がふきつけて、女の子たちのスカートを大きくひるがえす。
  咄嗟にハルはスカートを押さえようとしたものの、スカートの下に白い下着がちらりと見える。
「白だ……」
  どこか惚けたように綱吉が呟く。
  獄寺が目を凝らしてよくよく見ようとすると、スカートを押さえながらハルが近寄ってきた。
「もうっ、二人してドコ見てたんですか!」
  顔を真っ赤にしたハルは可愛い。ハルの怒鳴り声を聞きながら獄寺は、そんなことを考えている。
「ツナくん!」
  少しムッとしたような声で京子が綱吉の側に寄り、手を掴んだ。
「あっちに……もっと苺がいっぱいあるから、行ってみよ?」
  はにかみながらも京子は綱吉の手を取って、別の棟へと引っ張っていく。
  ふと視線を感じた獄寺がそちらのほうへと顔を向けると、ハルがじっとこちらを凝視していた。
「……なんだよ」
  眉間に皺を寄せて尋ねると、「なーんでも」と、唇を尖らせてハルが返してくる。
  つんけんするところが可愛くない。だけど、尖らせた唇も、明らかに不機嫌そうな横顔も、可愛い。
「こっち」
  むくれながらもハルは、綱吉たちとは反対の棟を指さした。
「……こっちのほうが、苺がいっぱいあります」
  言われるがままに獄寺は、ハルの後をついて歩く。
  さっきの悪戯な風がもう一度吹かないかと、そんな不謹慎なことを考えながら。



  しばらくの間、ハルと二人きりで黙々と苺を摘んだ。
  赤くて大きな苺を摘んでは口に運び、気づくといつの間にか指が濡れていた。苺の果汁が赤く指を濡らしている。隣にいたハルを見ると、彼女の唇も苺の果汁で赤く濡れている。
「なんだ、ベタベタじゃねーか」
  からかうように声をかけると、まだ怒っているのか、ハルはムッと口を尖らして獄寺を見上げてきた。
「はひっ……獄寺さんこそ人のこと言えないじゃないですか。口のまわりがベタベタです」
  言いながらハルが獄寺の口元へと指を伸ばした。
  ほっそりとした華奢なハルの指が、獄寺の唇についた果汁をすーっ、とぬぐう。指先に赤い果汁がついた。その指をハルは、ペロリと舐めた。
「甘くて……でも少し、酸っぱいですね」
  悪戯っぽく笑うハルの唇の端にも、苺の果汁がついている。
「そうか?」
  獄寺は身を屈めると、ハルの唇についた赤い果汁をペロリと舌先で舐め取った。
「……っっ!」
  ポトリと、ハルが手にしていた苺が足下に転がる。
「ひ……拾わなきゃ……」
  慌てて身を屈めようとするハルの肩を掴むと獄寺は、素早く唇を合わせた。
  舌を出して、合わさった唇をベロン、と舐める。甘酸っぱい苺の味がしている。自分の唇もハルの唇も、同じ苺の味がしているのだと思うと、それが妙にいやらしく感じられた。
「ん……っ」
  きゅっ、とジャケットの襟元を握りしめるハルの手を掴むと、さらに深く唇を合わせた。



「もーっ、獄寺さんてば、エロいことばっかりして!」
  唇を離した途端、ぷう、と頬を膨らませてハルが声を張り上げた。
  獄寺が吸い上げた唇が真っ赤に熟れているのは、苺の果汁のせいだけではない。
「まだまだ甘さが足りねーな」
  低く呟くと獄寺は、ハルの前髪をくしゃりと乱す。
「なんなんですか、それっ!」
  顔を真っ赤にして、必死になって言い訳を探すハルが可愛らしくてたまらない。
  恋人としてはまだ初で酸っぱいばかりの部分が目立つが、これから自分が少しずつ甘くしてやればいいことだ。
「いや……まあ、こっちの話だ」
  ふふん、と鼻で笑うと獄寺は、もう一粒苺を摘む。
  赤くて大きな苺をハルの目の前へ持っていくと、まだ何か言いたそうにしている口にぐい、と押し込んでやる。
「は、ひ……んっ!」
  パクリと食らいついてくる唇が可愛らしい。
「美味いか?」
  尋ねると、ハルは瞳を輝かせて大きく頷いた。



(2014.3.16)
END



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