仲間内で成人式を祝った後の静けさがどこか居心地が悪いのは、どうしてだろう。振袖姿の恋人をちらりと盗み見ると獄寺は、綱吉のほうへと向き直った。
「それじゃあ、十代目。俺たちもそろそろおいとま致します」
言いながらハルの肩をそっと抱き寄せると、てのひらの下で華奢な体が小さく強張るのが感じられる。
「そう?」
もう帰るの、と言いたげな綱吉に頭を下げ、獄寺は苦笑いを浮かべる。
互いの恋人たちが二人きりになるのを待ち構えているというのに、これ以上ヤボなことはできないだろう。
「暗いから気を付けて」
玄関口まで出てきた綱吉と京子はそう言うと、獄寺たち二人に手を振って見送ってくれる。
振袖姿の京子はいつになく慎ましく見え、似合いの二人だなと獄寺は思う。
それに反してこちらは、とそっと溜め息をつきつつ獄寺は、隣に立つハルを車の助手席へと座らせた。
「……獄寺さん」
獄寺が運転席に乗り込むなり、膨れっ面のハルは低く呟く。
「京子ちゃんばかり見てましたよね」
「見てねえって」
すかさず返しながら獄寺はエンジンをかける。
「今朝、ハルには馬子にも衣装だって言いましたよね、確か」
元気一杯のじゃじゃ馬娘の艶やかな振袖姿に、咄嗟に言葉が出なかったのは内緒の話だ。あまりにも愛らしくて、美しくて、声をかけることすら忘れていた。綱吉の京子を称賛する声に、ようやく我に返った獄寺だ。
「んなこたひとことも言ってねーよ」
むっとして言い返すと、今にも泣き出しそうなくしゃっとした顔でハルがさらに言い募る。
「だって、顔がそう言ってました。態度だって。ハルには似合わないって、そう思ってるんですよね、獄寺さんは」
こんな時、綱吉なら何と言うだろう。彼ならきっとハルを傷付けず、うまく宥めることができただろうに。
「言ってねえって言ってるだろ!」
むしゃくしゃして怒鳴り付けると、ますます恋人は機嫌を損ねてむくれてしまう。
「言いました!」
とても話をするような雰囲気ではないが、この後は獄寺の部屋で二人きりで過ごす予定になっている。成人式のお祝いを二人で祝い直そうと、以前から約束していたからだ。
部屋には二人が生まれた年のワインを用意して、特別な夜を過ごすため、殺風景な部屋に花を飾ったりもしているというのに。
はあぁ、とわざとらしく溜め息をついた獄寺は、路肩に車を停めると「ハル」と優しく恋人の名を呼んだ。
「せっかくの夜なんだから、喧嘩はやめようぜ」
特別な夜なのだから仲良く過ごしたいと思う気持ちは、ハルにだってあるはずだ。
「……だって」
まだ頬を膨らませたままハルがぽつりと言う。
「ちゃんとハルのほう、見てくれてません」
「なっ……」
そんなこと、ないとは言い切れない。あまりにも可愛らしい恋人の振袖姿に照れを感じて、一日中あさってのほうを向いていた気がする。ハルのほうを見てしまうと、目が離せなくなってしまいそうで怖かったのだ。
「ハルのこと、本当は好きじゃないんですよね?」
今にも泣き出しそうな恋人の膨れっ面を、獄寺は両手でそっと包み込む。
「んなわけないだろう」
優しくそう言い聞かせると、尖らせたままのやわらかな唇に自身のかさついた唇をゆっくりと重ねていく。
チュ、と音を立てて唇を吸い上げると、唇の端から甘やかな吐息が零れ落ちるのが感じられた。
「ハル」
耳元で名前を囁くと、恋人は恥ずかしそうに獄寺にしがみついてくる。
ふたたび唇を合わせながら片手で着物の裾を割り開き、てのひらで太腿を撫でさする。吸い付くような肌触りが心地好い。獄寺はその手をじわりじわりとずらして、太腿の付け根の奥をまさぐり出した。
「あ……ん、ん……ダメ……です。獄寺さん、ここじゃ、イヤ……」
微かに震える声でハルがそう告げる。
獄寺は下着の生地の上からそろりと蜜壺を指でなぞっていく。
「でも、湿ってるぜ?」
キスしかしてないのに、と低く笑って呟くと、顔を赤らめたままハルは俯く。膝頭を合わせて必死に獄寺の指を拒もうとするところも可愛らしい。
さらに唇を深く合わせながら獄寺は、ショーツの生地を指でなぶる。しっとりとした生地はすぐに愛液に濡れてぐっしょりとなってくる。
「ん、ん……ゃ、です……ぁ、そこっ!」
ぐい、と獄寺の胸元を押し返したハルは、粗い息をつきながらビクビクと太腿を震わせた。
「あ……」
じわり、とハルの目尻に涙が浮かび上がってくる。
しまった、やりすぎたとばかりに獄寺は咄嗟にハルの体を抱き締めた。
「早く、部屋に戻ろうぜ」
切羽詰まったような声で獄寺が恋人にねだると、ハルは小さく頷き返す。
「……はい」
掠れた恋人の声は、獄寺と同じように欲情していた。
獄寺の自宅マンションについた二人は、寄り添いながら部屋のドアを潜った。
艶やかな柄の帯をもどかしげにほどき、部屋の真ん中で脱ぎ落とした振袖が花弁のように広がるに任せたまま、二人は寝室へと。
「獄寺さんも、脱いでください」
不安そうな眼差しを生まれたままの姿のハルが向けてくるのに、獄寺は優しく微笑み返す。
「今は上だけな」
そう言うと獄寺はスーツとワイシャツを床に投げ捨て、ハルに覆い被さっていく。
初めて抱き合うというわけではない。肌がぴたりと合わさると不思議としっくりと馴染んで心地良い。そして互いの鼓動が聞こえてくるのがただただ嬉しくもある。
「ズルいです」
ハルが頬を膨らませるも、獄寺は素知らぬ顔をしてマシュマロのような手触りをした胸の谷間に顔を埋めていく。
「柔らけーな」
チュ、と音を立てて胸の軟肉を吸い上げられ、ハルの胸に朱色の印が刻み込まれる。
「あ……」
小さく体を震わせたハルは、恋人の背中に手を回しぎゅうっ、としがみついた。
「獄寺さんも……」
「ん?」
「獄寺さんも、ハルのことぎゅっ、ってしてください」
彼女甘いの囁きに応えるべく、獄寺はほっそりとした体を抱き締めた。頬と頬とをくっつけ、唇の端に触れるだけのキスを何度も繰り返す。
「……もっと」
囁しがみついたままハルは、掠れた声で囁く。
「もっと、優しくしてください」
今にも泣き出しそうな声でそう告げると、獄寺の唇に自身の唇を押し付けていく。深く唇を合わせて相手の吐息ごと貪ると、体が熱く溶けていくように感じられる。
「獄寺さ、ん……」
はふっ、と息を吐き出し、恋人の顔を見上げると、獄寺は真っ直ぐにハルを見下ろしていた。 「どこ、触ってほしいんだ?」
尋ねながらやわやわと胸をもみしだかれ、ハルは甘い声を上げる。
「ん、ん……あっ、ダメ…ですっ……!」
身を捩ってハルが獄寺の愛撫から逃れようとすると、足を大きく左右に割り開かれる。
「はひっ……んっ……やだ、ぁ……」
ゾクゾクと背筋を駆け上がってくる快感に、ハルは体を小さく震わせる。
開いた足の間に獄寺は入り込むと、太腿に唇を這わせてくる。
「んっ、ぁ……あ、あ……」
ざり、と舌が皮膚を舐め上げる感触に、ハルは身じろいだ。腹の奥がきゅんっ、となって蜜壺からいやらしい液が溢れてくるのが感じられる。
「ダメっ……ダメです、獄寺さんっ……やだ……恥ずかし、からっ……や……」
小刻みに震える睫毛の先に涙の滴を浮かべてハルが訴える。
「いつもしてることだろ、恥ずかしくないって」
そう言うと獄寺は、ハルの片足をぐい、と自身の肩に担ぎ上げた。足袋をはいたままの足にくちづけると、ゆっくりと留め具を外し、足袋を脱がせる。
「綺麗な足だな」
足首、土踏まずと唇で触れながら獄寺は囁く。
「ダ、メ……」
ふるっ、とハルが首を横に振る。
本当は、ダメではない。そうではなくて、気持ちがよくて困ってしまうのだ。いつもいつも獄寺に翻弄されてグズグズに溶かされてイってしまう。何もかもわからなくなるほど気持ちいいだけの世界に連れて行かれてしまうのはいつものことだ。
「なんで? こんなになってんのに、ダメなのか?」
言いながら獄寺の指が、ハルの蜜壺に触れてくる。陰唇の縁を指の腹が何度か行き交っただけで蜜壺の奥からは愛液が溢れてくる。こんこんと湧き出る泉のようにしっとりとなったそこへ獄寺は顔を近付け、ペロペロと舌で舐めてきた。
「は、ひ……」
はしたない淫音が響き、ハルの身体の奥底がじわっと熱くなる。腹の中がむず痒いようなじれったいような感覚が広がっていくと同時に、もっと中のほうを別のモノでごりごりと擦られたい気持ちが大きくなっていく。
「ぁ……あ……」
ダメ、と囁く掠れた声はもの欲しそうな色を含んでいた。
「違げーだろ、ハル」
顔を上げて、獄寺が言う。
「ダメなんじゃなくて、もっと、だろ?」
獄寺は舌のかわりに指を蜜壺へと突き立てた。ハルの気持ちいいところを指でごりごりと擦りながら、愛液を外へ掻き出そうと指を動かされる。そうされるだけでハルの腰は小さく跳ね、艶めいた喘ぎ声が口の端から洩れ出してくる。身体を捩りながらいやらしい痴態を見せつけるように自分からさらに足を大きく開いてしまうのが、ハルには恥ずかしくてたまらない。
「やっ……それ、や、です……ダメ……気持ちょくて、ダ…メ……」
片手で口を覆いながらハルは啜り泣いた。
気持ちよくて、もっともっとと足を開いてしまいそうになる。はしたない蜜壺はぐしょぐしょに濡れて、いやらしい音がひっきりなしに聞こえてくる。
「もっ、ヤだ……」
すんっ、と鼻を啜り上げると同時に獄寺の指が引き抜かれる。
「ハル。泣くなよ」
こんなに可愛いのに、と結い上げたハルの髪を優しく乱しながら獄寺はスラックスの前を広げ、硬くなった陰茎を取り出してくる。
「これで……」
と、そう言いながら獄寺は、ハルの陰唇に先端を押し付け、ぬぷぬぷと先走りごと擦り付けてくる。
「好きなだけ突いてやるよ」
「あぁ……」
意地悪な獄寺の囁き声に、思わずハルは声を上げていた。
欲しくて欲しくてたまらなかったのは、これだ。獄寺の、この硬くて大きなもので、中をぐちゃぐちゃに犯されたい。突き入れて、子宮を押し潰すほどの勢いで掻き混ぜてほしい。
「獄寺さ、ん……」
早く、と腰を揺らして誘うと、獄寺が唾を飲み込むのが分かった。喉が大きく上下して、唾を嚥下する音がハルにも聞こえてくるような気がする。
「早…く、くださぃ……中、欲し……っ」
言い終えるよりも早く、獄寺が腰を強く押し付けてきた。
ぐい、と蜜壺の入り口が大きく広げられ、襞を掻き分け硬く熱いものが押し入ってくるのが感じられる。
「ひうっ……ぅ……」
ぱちゅんっ、といやらしい音を立てて奥のほうを獄寺の先端が擦り上げると、ハルは背を仰け反らせて声を上げた。
「ああっ、あ……挿っ、て……挿ってきますぅぅ……」
子宮がキュンキュンと歓喜に打ち震え、潜り込んでくる硬いものを愛しそうに締め付ける。
「や、ぁ……奥、当たって……中でごりごりって……んんっ、ふ、あぁっ……!」
お尻の孔までもきゅんっ、と締まる感覚に、ハルの身体が悦びに震える。
「ここを擦ってほしいんだろ?」
唇をペロリと舐め上げ、獄寺は微かに笑った。
「優しく? それとも、キツくしたほうがいいか?」
尋ねながらも獄寺は腰をゆるゆると揺らしている。びらびらの襞を掻き分ける陰茎には蜜壺から溢れた愛液が降り注ぎ、しとどに濡れている。
「ぁ……獄寺さっ……キツく……キツく、してくださ、ぃ……奥までいっぱいにして、それから……」
「それから?」
「ごりごりって……赤ちゃんできちゃうぐらい、いっぱい……いっぱい、突いてください」
獄寺の腰に足を絡めて、ハルは続きをねだった。
「あと、それから……獄寺さんの、お嫁さんにしてほしいです……」
消え入りそうな小さな声でそう囁くとハルは、恥ずかしそうに獄寺にしがみつく。ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めて恥ずかしさをこらえていると、獄寺の唇がハルのみみたぶを掠めていく。
「……いいぜ」
小さな小さな掠れる声がハルの耳に届いた。
驚いたハルが顔を上げようとした途端、獄寺は腰を揺らして蜜壺の中を掻き混ぜ始める。
「あっ、待って……待って、獄寺さん……」
もう一度聞かせてとお願いする間もなく、ハルの身体は翻弄され、快楽の波に攫われていった。
目が覚めると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるのが見えた。
何度も抱き合って、恥ずかしい格好をさせられたことは覚えている。
それと、ハルのことをお嫁さんにしてくれるとも、獄寺は言っていた。
本当なら嬉しいなとハルは思う。
隣で寝息を立てて眠る恋人は、いつになく幸せそうな顔をしている。
「いつか本当にお嫁さんにしてくださいね、獄寺さん」
そっとハルが囁くのに、獄寺が小さく寝返りを打つ。
抱かれ過ぎた体はほんのりと熱く、子宮の奥はまだ微かに疼いているような気がする。
いつか、獄寺がハルのことを本当にお嫁さんにしてくれる日が来たなら、二人で綱吉のところへ挨拶に行かなければならないだろう。互いの両親よりも、誰よりも、真っ先に綱吉に知らせたい。
そんなことを思いながらハルは、恋人に小さく微笑みかけた。
(2019.2.3)
END
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