おいしいキス

  キッチンでお弁当を作っているハルのそばにやってきた綱吉は、彼女の手元をちらりと横目で確認してからおもむろにぴたりと体を寄り添わせた。
  カウンターの上には唐揚げ、野菜巻き、それにたった今できあがったばかりのだし巻玉子がずらりと並んでいる。
「あーん」
  幼い子どものように口を開けた綱吉は、ねだるようにハルへと視線を向ける。
  目だけで「ここ、ここ」と語りかけられ、ハルは小さくため息をついた。
「もう、仕方ないですね、ツナさんてば」
  そう呟くとハルは、切り分けたばかりのだし巻きを指でつまんで綱吉の口へと運んでやる。
「つまみ食いはこれだけですよ」
  尊大な態度で彼女が宣言すると、綱吉は素直にうん、と頷く。
  その様子が子どものように見えて、ハルは小さく笑った。
  綱吉もハルも同い年で、二人とももう二十歳を過ぎたいい大人だというのに、いったい何をしているのだろう。
  二口でだし巻を食べ終えた綱吉の舌が、ついでとばかりにハルの指先をペロリとねぶっていく
「はひっ……まだお弁当作ってる最中なんですから、そんなことしちゃダメですよ、ツナさん」
  慌てて綱吉のそばから離れようとすると、力強い腕がハルの腰をぐい、と引き寄せた。
  だし巻き玉子を咀嚼する綱吉の顔が近づいてきて、ハルの唇にキスを落としてくる。
  唇が重なると、ほんのりと優しいだし巻きの味がする。
  ハルはうっとりと目を閉じると、綱吉の逞しい背中に手を回した。



(2014.4.13)
END



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