『Kiss in the Dark』
ベッドの上に倒れ込んだ二人は、唇をゆっくりと重ね合わせた。
溜息が零れ、相手の口の中に消えていく。
まだ羽織ったままだったサンジのシャツを、エースは手早く脱がしてやる。
お返しとばかりにサンジの手が、エースのバックルにかかった。音を立ててバックルを外したものの、そのまま布の上から股間をするりと撫でていくだけで、なかなか直接触れようとはしない。
「いっぱい、欲しい」
ぽそりと呟いたサンジは、悪戯っぽく布の上からエースの性器を鷲掴みにし、爪を立てた。
「中に……」
掠れた声でそう告げると、掠めるようなキスをして、素早く身をかわす。
エースは焦れたようにサンジの腰を片腕で抱えると、横抱きにして白い肩口にくちづけた。
「ナマで挿れていい?」
尋ねながら耳朶をやんわりと囓ると、サンジの唇からクスクスと笑い声が洩れる。
抱きしめるエースの腕に手を回し、指を絡めたサンジは、腰をぐいぐいとエースのほうへと押しつけていく。
「後でな」
言いながらサンジの手は、後ろ手にエースの性器を探り当て、やわやわと扱き始めていた。
サンジの髪や肩口にくちづけを落としながらエースは、開いているほうの手でそっとサンジの胸のあたりをなぞりあげた。胸の突起を探り当て、摘み上げてやると、甘い吐息がサンジの口から洩れだした。 エースの腕の中で身を捩ったサンジは、自らの唇で、男の唇に軽く触れる。
チュ、という湿った音がして、サンジの瞳が悪戯っぽく煌めいた。
「……クリスマスに使おうと思ってたんだ」
そう言ってごそごそと枕元に手をやったかと思うと、クリスマスを彷彿とさせるイラストが描かれたコンドームのパックを取り出して、サンジは笑った。
ベッドの上にうずくまるようにしてサンジは、エースの性器に唇を寄せていく。
青臭いような甘酸っぱいようなにおいのする性器を口に含むと、舌を絡めて竿を刺激してやる。
両手で竿と玉袋を包み込み、やんわりと刺激を与えると、サンジの頭を撫でるエースの息が時折、乱れた。
「気持ちいいか?」
尋ねると、照れ臭そうに笑いながらエースは頷く。
カリの部分に舌を絡め、散々吸い上げると、竿の側面に血管が浮かび上がって大きくひくついた。
サンジはコンドームの包装を無造作に破り捨て、エースのペニスにそっとゴムを被せてやった。
「……俺にも、つけて」
上目遣いにサンジがねだると、エースは同じようにコンドームの封をあけてサンジの性器に被せてやる。
「ジェルも、使おう」
どこから出してきたのか、サンジは潤滑剤を手に取り、エースの性器にたっぷりとジェルを塗りたくった。
「これ、わざわざ用意したの?」
エースが尋ねると、サンジは無邪気に声をあげて笑った。
「まさか。この間のクリスマスに、麗しのレディたちからプレゼントにもらったんだよ」
麗しのレディと言われて、エースはああ、と頷いた。あの時は確か、ルフィと一緒にナミとロビンが来ていたはずだ。
これらが彼女たちからのプレゼントだと思うと、こうして使われることを想定してということなのだろう。そう思うと、何となく気恥ずかしい感じがして、エースは口元に手をあて、押し黙ってしまった。 「なに? なんだよ?」
サンジが尋ねると、エースは何でもないというふうに目だけをぎょろりと動かした。
「いいや……何となく、恥ずかしさがこみあげてきて……」
躊躇いがちにエースが告げると、サンジもはたと同じようなことに気付いたらしい。
「そういや、そうだな……」
二人して頭をつきあわせたまま、何とも言えない気持ちになってしまった。
盛り上がった気持ちでいたから尚のことだ。
困ったように見つめ合い、もじもじした末にサンジがぽつりと呟いた。
「いつまでもこうしてたって始まらないから、さ」
エースの肩を両手で押さえつけると、ぐい、とベッドに押し倒す。
「せっかくなんだから、ありがたく使わせてもらおうぜ」
悪戯っぽく口元だけでニヤリと笑うとサンジは、エースの唇に軽くキスをした。
すぐにエースの手が、サンジの体を這い回った。繊細な指先が、肌を撫で上げる感触に、サンジの体が震える。
「お前にとってのいい姉貴だな、あの二人は」
チュ、と白い胸元に唇を寄せながら、エースが囁く。
「ん……そう、かな?」
今までそんなふうに思ったこともなかったが、言われてみれば、ロビンとナミとは気が合った。
彼女たちとは仲間だったが、時には姉弟のように出かけることも少なくはなかった。自分としては、恋愛の対象として見て欲しいと思わずにはいられなかったが、彼女たちにしてみれば、どうもそうは思っていなかったようだ。
「だって、どう見たって、お前のほうが幼い……」
言いかけたエースの肩口に、サンジは噛みついた。
「っ、痛……」
拗ねたように唇をとがらせたサンジが、エースを睨み付けている。
上目遣いにエースの目を見つめながら、サンジは歯形の残る肩に舌を這わせた。ピチャピチャと音を立てながら、サンジの頭が肩から胸へと降りていく。
ゆっくり、ゆっくり。焦らすようにサンジの舌が、エースの乳首を軽くつつく。
エースの手がサンジの頬を捉えた。
薄暗い照明の下で、サンジは甘い目眩を感じた。
エースの腹の上に馬乗りになったサンジは、ゆっくりと腰を落としていった。
ジェルでべたついたエースの性器を、尻の窄まりの奥へと飲み込んでいく。その感覚に、サンジの背筋がぞくりとなる。
「中で、グチュグチュいってるな」
ニヤニヤと笑いながら、エースが言う。
「馬鹿、ムードを盛り下げるようなこと言うなよ」
そう言ってサンジは、後ろ手にエースの太股をやんわりとつねった。
それから、少しずつ足の位置をずらしていき、片足をエースの肩に乗せた。開脚したサンジの股間で、勃起したペニスがひくついている。
少し無理な体勢でキスを交わした。
「…ん、ふ……」
意識して後ろの締め付けを強くすると、中でエースのペニスがぐん、と硬度を増すのが感じられた。
腹の間に挟まれるような格好になったサンジのペニスが、透明なスキンの膜に包まれてピクン、と震える。
すぐにエースの手が、サンジのペニスを握りしめてきた。スキン越しであっても扱き上げられると気持ちがいいし、それなりの反応も示す。あっというまにスキンの中は先走りでドロドロになった。
「ゃ……」
エースの首にしがみついたサンジは、荒い呼吸を繰り返した。
「や、も……」
言いかけて、慌てて口を閉じる。
口を開くと言葉にならない声が洩れ、口の端からたらりと涎が零れ落ちていく。
「もう、イキたい?」
耳元にエースが囁きかけると、サンジはこくこくと頷いた。
「イキてぇ……」
はあぁ、と息を吐き出すと、サンジはエースを見つめた。潤みがちの青い瞳が、暗に限界を訴えているように見えないでもない。
「じゃあ、一緒にイこうな」
鼻先をサンジの頬に押しつけて、エースは触れるだけのキスをした。
片手で白い尻を掴み、揉みしだくと、首にしがみついた白い腕が微かに震えているのが感じられた。
「我慢しなくていいのに」
小さく笑ってエースは言った。
いつものことだが、場所が場所だけに、サンジはあまり声をあげようとしない。自分たちの新居とは言え、ここはバラティエの一画だ。養い子のサンジが男の恋人を連れて帰ってきただけでもゼフの怒りは凄まじかったが、今やエースはサンジのパートナーであり、婿養子だ。これ以上の揉め事をこちらから誘発することもないだろう。
「あ、あぁ……」
全身を強張らせたサンジが、控えめな嬌声を口の端から洩らす。
エースはゆっくりとサンジを追い上げにかかった。
目を開けると、男が笑っていた。
見ているこちらが幸せになるような、嬉しそうな顔で男はじっとサンジを見つめている。
「一緒にイケてよかったな」
歯茎を剥き出しにして、エースはニヤリと笑った。
サンジは小さく頷くと、エースの体を抱きしめた。
男の、汗と体臭と精液のにおいがしている。
幸せだとサンジは思った。
好きな男がいて、同じ時間を過ごすことができるのは、なんと幸せなことだろう、と。
「ん……よかった……」
ぽそりと返して、サンジは男の肌に唇を寄せた。
海賊稼業をしていた時の充足感とはまた別の、満ち足りた気分がサンジの体を満たしている。 「こうして、アンタと一緒にいれて幸せだと思う」
掠れた声で、サンジは告げる。
「俺も、幸せ」
華奢なサンジの体をぎゅっと抱き返して、エースが返す。
いつか、それぞれが海賊稼業に戻っていく日が来たとしても、今のこの時間は嘘偽りのない真実の時間だ。二人ともそのことを理解しているからだろうか、先のことはあまり話したことがない。
おそらく、やってくる『いつか』という未来の日のために、悔いのないように、二人は日々を過ごしているのだろう。
「もう一回、しよう」
サンジが言った。
エースは黙って、抱きしめたサンジの体をさらに強く抱きしめた。
「うん。もう一回、しよう」
今度は、部屋の灯りを消して抱き合った。
暗闇で交わすキスは甘かったが、どことなくほろ苦い香りがしていた。
END
(H20.12.28)
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