『LOVEがたりない 2』



  すごく好きで、気持ちが追いつかない。
  空回りした心が、必死になって足りないものを追いかけている。
  床の上に仰向けになったエースは、惜しげもなく裸体を晒していた。
  程良く筋肉がついて日に焼けたエースの体は、がっしりと逞しい。ほっそりとして色白の自分の体格にはない男の色香を放っている。
  ほう、と溜息を吐いてサンジは、エースの竿の先端に舌を這わせた。
  鈴口にじわりと滲み出てきた先走りを舐め取ると、苦みのある青臭い味が口の中に広がっていく。
「これ、もらってもいいか?」
  顔を上げたサンジは、上目遣いにエースに尋ねかけた。
「お好きなように」
  優しく返され、サンジは幸せそうに目を細める。
  髪を梳いてくれる手は大きくて、サンジはうっとりとした表情で目の前のペニスにかぶりついていった。喉の奥に当たるまでぐい、と飲み込み、口元を窄めて竿を口から出し入れする。先走りとサンジの唾液とが混ざり合い、口の端から伝い落ちていく。
「ふ……」
  じゅぷ、と音を立てて亀頭を吸い上げるとエースの体がわずかに震え、ついでサンジの口の中に熱いものが溢れかえった。
「ぅん……っ……」
  えぐみのある精液を、サンジは喉を鳴らしながら飲み干していく。
  この味は、嫌いではない。
  ドロリとした熱いものが喉に叩きつけられた瞬間にえずきそうになったものの、ぐっと堪えてサンジは燕下した。
  顔をあげると、エースが神妙な顔つきでサンジを見つめている。
「……うまかった」
  ニィッとサンジが笑うと、エースは親指の腹でサンジの口元を拭った。口の端をたらりと伝う精液と唾液の入り混じったものをぐい、とふきとり、サンジの体を引き寄せた。



  唇を合わせようとすると、サンジの手がエースの唇をやんわりと押さえた。
「ダメだ」
  悪戯っぽくニヤリと笑ってサンジは、エースの手を取る。
「あっちで……」
  と、エースをキッチンへと連れて行く。
  白いクロスをかけたテーブルに上体を預けたサンジは、エースのほうへと尻を突き出した。
「──…バレンタインのかわりに」
  掠れた声で囁いて、サンジはじっと待っている。
  戸惑いながらエースが目の前に突き出された尻に手をかけると、サンジがほうっと息を吐き出すのが感じられた。
「早く……」
  ちらりと振り返ってエースを見る。ほんのりと目元を朱色に染めたサンジは、淡い笑みを浮かべて待っている。
  ごくりと唾を飲み込んで、エースは床に跪いた。サンジの尻を両手でぐい、と開き、舌を這わせる。ピチャ、と音を立てて窄まった部分を舐めると、微かな震えが感じられた。
  ゆっくりと焦らすように、皺と皺との間に舌をねじ込み、舐めあげる。時折、窄まりの挾間に舌先を差し込むと、サンジの体がビクンと跳ねて、それから慌てて息を潜めるのがはっきりとわかった。エースは小さく笑うと、サンジの前へと手をやった。
「このままイく? それとも、中に出して欲しい?」
  甘く尋ねかけるエースの吐く息ですら、サンジは体を震わせる。
「あ……」
  掠れた声が喉元に上がってきて、細くひび割れた嬌声となって口から流れ出る。
  襞の中に、エースの舌が潜り込んでくる。熱い……人より少し高い体温に、サンジの全身に力が入る。
「エース……」
  まるで啜り泣いているかのようなみっともない声に、自分でも頬が赤らむのが感じられた。



  テーブルの上に、ポタリ、ポタリと灰色の染みが浮き上がる。汗と、涎だ。
  手をいっぱいに伸ばしてテーブルクロスを握り締めると、握り締めた部分が皺になった。
「……中に、くれよ」
  食いしばった歯の間からサンジがなんとか言葉を発すると、エースは、前に回したほうの手でサンジの亀頭を軽く引っ掻いた。
「後ろから? それとも、前から?」
  尋ねながら、爪の先でカリカリと引っ掻いて尿道口を押し広げる。サンジの体がビクビクとしなり、あられもない声があがった。微かに震える足は、床の上で頼りないステップを踏んでいるかのようだ。
「ぁ……後ろ、から……」
  おもむろにエースは立ち上がると、サンジから身を離した。
  両手でサンジの尻を掴み、自らの高ぶった竿を窄まりに押し当てる。緋色の部分は収縮を繰り返しながら、エースのペニスを待っている。
「しっかり膝を閉じて立ってろ」
  そう言ってエースは、サンジの両足を閉じさせた。股の間にペニスを押し込み、後ろからそっとサンジの玉袋を擦りあげる。
  いやいやをするようにサンジが首を振ると、汗で湿った金髪がうなじにはりついた。
「中、に……」
  口走った途端、また、新たな染みがテーブルクロスの上に広がる。
「後でな」
  そう言うとエースは、腰を激しく動かし始めた。



  ヌチャヌチャと湿った音が部屋に響いている。
  蟻の戸渡を刺激され、サンジの腹の底が熱に満たされる。解放されない熱が腹の中で渦巻いている。いつまで経っても満たされない、こもった熱だ。
  裏側から玉袋を刺激され、竿にガツガツと当たってくるのはエースの竿だ。熱い。ドロドロしているのはきっと、互いの先走りが溢れてごっちゃになっているからだろう。
「っ……」
  体の中が満たされないままに、エースの迸りを股の間に感じた。と、同時に、サンジの目尻からつーっと、一筋の涙が伝い落ちる。
  背中越しに息を荒げたままの男は、サンジの太股に手をかけた。
「お望み通り、後ろから犯してやる」
  優しい声だった。
  低く、掠れた甘い声で囁かれると、サンジの体に震えが走る。
  ゆっくりと片足をテーブルに引き上げられ、尻の肉を掴まれた。意識していないのに、サンジの窄まった部分がひくついて収縮を繰り返す。
「んっ……」
  襞を伸ばすかのように、エースの先端が窄まった部分を弧を描いてなすりつけられた。先端の残滓がニチャニチャと音を立てて、サンジの窄まりに塗り込められる。
「早く……エー、ス……」
  床についたほうの足は爪先立ちになって、サンジは尻をぐっと突き出した。
  間を置かずしてエースの高ぶりが改めて押し当てられる。一息に貫かれた瞬間、サンジはピリピリとした痛みを感じた。
「っ…あぁ……」
  サンジが膝に力を入れると、その途端、挿入されたエースの竿をきゅっと締め付ける。硬く太い竿の先端が内壁を擦り、突き上げると、サンジの喉から獣のような唸り声が洩れた。
  触れてもいないサンジのペニスが勃起し、新たな先走りを滲ませている。
「エース……エース……」
  うわごとのようにエースの名を呼び、体を捩ると、後ろから自分を犯している男の顔をサンジはうっとりと眺めた。
「もっと、熱く……」
  ひび割れたサンジの声に、エースの突き上げが激しさを増した。



  少しの時間、意識がなくなった。ほんのわずかな時間のことだ。十秒か、或いは五秒か。どちらにしても、そう長い時間ではないはずだ。
  気付くと、力の抜けた体をテーブルに預けたまま、サンジは激しく揺さぶられていた。息を吐くと、それにあわせて鼻にかかったような声が洩れる。男の声にしては妙に甲高い声で、幾度となくエースと肌を合わせているにもかかわらず、どことなく決まりが悪い。
  何度か突き上げられて、サンジはイッた。テーブルクロスの端に白濁した精液を飛ばし、大きな染みを作ってしまった。今にもスパークしそうな意識の中で、後でテーブルクロスを洗わなければならないと、そんなことをサンジはぼんやりと考えている。いや、それよりも、この原因を作ったエースに洗濯をさせればいい。きっとエースは、喜んで洗濯を引き受けてくれるだろう。
  それからすぐに、サンジの体の中に熱い迸りが満たされた。
  欲しくて欲しくて仕方がなかったものが、激しい勢いで内壁に叩きつけられ、腹の中に満ちていく。
「あ、あ、あ……──」
  ヒクン、ヒクン、と痙攣するように体を大きくひくつかせてサンジは、エースの迸りを体の中に受け止めた。
  熱が、体のそこここに広がっていく。
  欲しかったものは、これなのか。それとも、もっと別のものなのか。
  体の中に潮が満ちていくように、気持ちが満たされていくのが感じられ、サンジは振り返って、エースにキスをした。
「──…それで、満足したの?」
  からかうようにエースが尋ねる。
  目の前の男を軽く睨み付けると、サンジは自分からもう一度キスをした。歯と歯がぶつかって、カツン、と小さな音を立てた。



END
(H20.3.30)



        


AS ROOM      ヒヨコのキモチ