『雪夢』
こんなに広い海の真ん中で、エースが自分のためだけにやってくるとは、思ってもいなかった。いつも、そうだ。再会を切望しているくせにサンジは、本気でエースと出会えるとは思っていない。エースがサンジのいるこの船にまでやってくることを、まるで夢か何かのように思っているのだ。
サンジは、無意識のうちに尻をエースの腰に押し付けるような格好をとると、ぐい、と背を反らした。
「エース……」
呟いた瞬間、サンジの窄まりを押し広げるようにしてエースの指が潜り込んでくる。
「ぁ……」
甲板の縁に掴まって、サンジは体が跳ねそうになるのを堪えた。
「痛かったらやめるけど?」
どうする? と尋ねられ、サンジは首を横に振った。
「このままで……」
啜り泣くような声でサンジが返す。
声が掠れているのは、痛みからだろうか。それとも何か別の感覚があるからだろうか。
エースはゆっくりと、潜り込ませた指でサンジの内壁を押し広げる。ぐい、と壁伝いに奥へと擦り上げると、サンジの体がそのたびに揺らいだ。
「あっ……」
潜り込ませた指の数を二本に増やすと、サンジの締め付けが強くなった。そのままグリグリと中を圧迫し、二本の指で入り口を広げる。三本目の指で入り口の皺をなぞってやると、サンジの膝がガクガクと震えだした。
「エース……エース……」
尻をエースのほうに突き出して、サンジは必死になって縁にしがみついた。
クチュ、と股の間で音がして、喘ぎながらもサンジが下を見ると、自分の性器を扱くエースの手が見えた。先端の割れ目から透明な先走りが溢れ出て、エースの手を濡らし、ポタリ、ポタリと下に零れ落ちていく。
目を閉じて、サンジははあ、と息を吐いた。
三本目の指が奥へと入り込んできて、痛いぐらいに中を引っかき回している。
「ぃ……あ……」
カタン、と、サンジの膝が崩れそうになり、その途端に後ろで銜えたエースの指を締め付けていた。
「ヒッ……」
喉の奥から掠れた悲鳴があがり、エースの指が、まるでいきり立った怒張のようにサンジを追い上げにかかる。
腰を引くと、エースの指がさらに奥へと潜り込もうとする。体の奥深いところでサンジは、指ではない別のものを欲している。疼くような焦れったさに、気付けばサンジは自分から腰を揺らしていた。
ゆっくりと、エースの指が奥を目指して這い上がってくる。
くぐもった呻き声をあげるとサンジは腰をぐい、と突き出した。
前に回されたエースの手が、サンジの先端の割れ目に沿って爪を立てる。グリグリと刺激された。それからエースの爪が軽く割れ目を引っ掻くと、サンジの体が大きくブルッと震えた。
次の瞬間、エースの手の中には白濁したサンジの精液が放たれていた。
エースは手の中の精液をきれいに舐め取ると、サンジの体をくるりと自分のほうへと向けた。
「ついでだ。舐めてやるよ」
そう言うが早いか、エースはサンジの前に跪いた。
くたりと力を失いつつあるサンジのペニスを口に含むと、ゆっくりと舌で精液を舐め取っていく。
「エース……そこまでしなくても……」
掠れた声で、サンジが言った。
これ以上エースに触れられていると、彼から離れることができなくなりそうで恐かった。
それでも。
エースの髪に指を絡め、サンジはしばらくの間、その髪の感触を楽しんだ。
エースの口が離れていくと、サンジは物寂しさを覚えた。
これでまた、しばらくは会うことができないのだと思うと、胸の中にぽっかりと穴が開いてしまったような感じがする。
着衣の乱れをエースに直してもらいながら、サンジはぼんやりとエースの手を見つめていた。
この手に翻弄されるのは、心地よい。あたたかで大きな手は、サンジにいつも安心感を与えてくれる。
「次は、すぐに会えるのか?」
尋ねる言葉は、期待を含まない。
エースは考えるように小首を傾げて、小さく笑った。
「すぐに会いたいな」
優しく、そう返された。
期待をもたせない言葉は難しい。サンジは頷いて、自分からエースの唇にキスをした。
ちゅ、と湿った音がして、サンジの歯がエースの下唇を甘噛みする。
すぐにエースの舌が追いかけてきて、サンジの唇をぺろりと舐めた。
「すぐ、会おう。ここで……」
唇が離れると、サンジは親指で甲板を指して言った。
「そうだな。すぐに、会おう」
呟いたエースの息は白かった。
疑うでもなく、喜ぶでもなく、淡々とした表情のサンジにエースは苦笑して、金髪の中に指を差し込み、がしがしと掻き乱した。
ふと空を見上げると、曇天のそこここから白いものが落ち始めている。
「──雪だ、サンジ」
エースの言葉に、サンジは黙って空を見上げた。
「そろそろ行かないとな」
決まり悪そうに呟いて、エースは海の向こうへと視線を漂わせる。
「……ああ、そうだな」
サンジは、エースの胸に顔を埋めた。大胸筋の隅っこに唇を這わせると、きつく吸い上げる。
「あ?」
怪訝そうにエースは、サンジの顔を覗き込んだ。
「シルシだ」
はは、と笑ってサンジは告げた。
「シルシ?」
尋ね返しても、サンジはそれ以上は何も教えようとはしなかった。
仕方なしにエースは、サンジの手を取った。すっかり冷え切った手は冷たく、氷のようだ。
「冷えちまったな」
そう言ったかと思うとエースは、サンジの指先に唇を押し当てる。ちゅ、と音がして、先ほどからかじかんでいたサンジの指先がほんのりとあたたかくなっていく。
「冷えないように、中に入ってろ」
そう告げると、エースはくるりと背を向けた。
「じゃあ、また」
拳を軽く上げて、エースは言う。
サンジは目を閉じて、返した。
「またな、エース」
しだいに強まっていく雪の向こうにエースの姿が消えてしまっても、サンジの瞼には恋人の姿が鮮やかに焼き付いて、離れようとしなかった。
END
(H19.11.13)
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