『めまい』
ホテルの一室で抱き合った。
ベッドの上でサンジは足を大きく開いている。
股間に覆い被さるような格好の、ゾロの緑色の髪が目に鮮やかに映る。
腰の下に敷きこんだ枕のせいで、ゾロからはサンジの尻がよく見えた。ペニスの裏側から蟻の戸渡りを伝い、尻の孔を眺める。皺の一本一本までもがはっきりと見えるのは、今が昼間で、窓にかかったカーテンが開いたままになっているからだ。
おもむろにサンジは両手を自分の尻に這わし、孔を拡げた。
暗くて狭い孔が、身体の奥へと縦に続いている。
ゾロはその部分へと顔を寄せ、躊躇うことなく舌を差し込んだ。
ヌルリとした感触に、サンジは思わず顔をしかめた。
気持ち悪いのだが、慣らされて少しずつ気持ちよくなっていくその感触に、涙が滲む。目元と、それから性器の先端に。
後孔に舌を這わせたゾロは、ピチャピチャと音を立てて皺の一本一本を丹念にねぶった。
「あ……ぁ……」
開脚したサンジの腰は不安定に揺れている。
目を閉じると、いっそう強くゾロの牡のにおいが感じられた。
男同士の行為に抵抗がないと言えば嘘になる。
相手ばかりが突っ込んで気持ちのいい思いをしているのだと思うと腹立たしくなることも多々あったが、それ以上に、相手のものを躰の中へ迎え入れる時のあの一体感が、サンジを虜にしていた。繋がる瞬間の痛みを感じると、躰がゾクゾクしてくる。おそらくそれは、快感からくるものだけではないはずだ。ある意味それは麻薬のような、高揚感とトリップ感を与えてくれるものでもあった。
限界まで足を開いたサンジは、尻の筋肉をきゅっ、と締める。孔がひくついているのは、この後に与えられるものを予感してのことだ。
「……挿れろよ」
低く掠れた声で、サンジはゾロを誘う。
勃起したものの先端に先走りの液が溜まってくる。落ちそうで落ちない。先端は重く、もどかしい感覚だけがサンジの中を駆け巡っている。
「挿れろよ、クソッ……」
見せつけるようにサンジはさらに、尻の肉を左右に引っ張った。先ほど、ゾロの舌で解された菊門の中心に人差し指をねじ込むと、ゆっくりと抜き差しする。
ゾロは黙ってそれを見ている。
じっと凝視するゾロの眼差しに焦れて、サンジは内壁を乱暴に引っ掻いた。コリコリとする前立腺の裏側のしこりをぐい、と押した瞬間、声が洩れた。
ゴクリ、と、ゾロが唾を飲み込む。
同時に、くちゅり、と音がした。サンジの指が内壁を蠢くのに合わせて、湿った音が聞こえてくる。潤滑油代わりに流し込まれたゾロの唾液の音だ。
「はっ、ぁあ……」
大きく肩で息をついたゾロの指先が、サンジの手を孔の中から引きずり出す。
ぴちゃり、とサンジの指をひと舐めしてから、ゾロはサンジの腰を固定させるようにしてしっかと掴んだ。
ギンギンに張りつめたゾロのイチモツが、窮屈な孔を通って身体の中に入り込んでくる。
サンジは背を反らし、痛みを耐えた。
「……ひっ、ぁ……んんっ……」
枕から腰がずり落ちそうになりながらも、サンジはゾロの腕にしがみついていく。
両足をしっかりゾロの腰に巻き付けると、激しく唇を求めた。
筋肉質なゾロの腕が、サンジの腰を抱え上げる。ゾロは、サンジが肩口にしがみつくのを待ってから、腰を揺さぶり始めた。最初はゆっくりと、深く奥を抉るように。それから、浅く、鋭く。
「あ、あ……はぅっ……」
サンジの全身の毛穴から、汗がどっと噴き出す。
抉られる瞬間の痛みが、愛しい。自分の中に同じ性の男を迎え入れて、翻弄しているのだと思うと、小気味よかった。
腰を動かしながらもゾロの手は、サンジの胸の突起をつまみ上げた。触れるとすぐに勃起する乳首をゾロの指の腹でしばらくもてあそばれ、その刺激にサンジは甘い吐息を洩らす。サンジのペニスがひくつき、ゾロの腹を圧迫している。
「イきそうか?」
と、問われれば、サンジは首を横に振る。目尻にはうっすらと涙が滲み、表情を見ると限界が近いようにも思われるのだが、それでもサンジは決して首を縦に振ろうとはしない。
刺激を受けてぷっくりと腫れ上がったサンジの乳首を、ゾロは軽く噛んだ。舌先で転がし、円を描くように乳輪の縁をざらりとなぞる。
「んっ…ぅん……」
ピクン、とサンジの身体が跳ねる。
汗で滑る手に力を込め、全身でゾロにしがみつくと、細長い悲鳴のような声が口から溢れた。
立ちこめる牡のにおいに、頭の芯が痺れるような感覚がする。二人分の精液のにおいは生臭くて、百合の芯のように青臭い。
億劫そうにサンジは目を開けると、隣に横たわるゾロの唇をペロリと舐めた。
「なあ、気持ちよかったか?」
フフッ、と低く笑いながらサンジは尋ねる。
閉じていた目を片目だけゆっくりと開け、ゾロは口の端を歪めた。
「あ? なんだよ、気持ち悪りぃ。今日に限ってそんなこと訊くのかよ」
機嫌の良さそうな笑みを浮かべたまま、サンジは枕元に置いていたシガーケースから煙草を取り出す。火をつけると、軽く燻らせた。
「船の中じゃあ、ゆっくりとは出来ねぇからな」
と、サンジ。
確かにそうかもしれない。船の中では常に仲間たちの目を意識しながらでなければならない。思うように事が運ばず、苛々することも多々あった。どこかの港町で、と思っていても、なかなか予定通りにいくことは少なく、ここしばらくはお預けの日々が続いていたようにも思う。
「──…そうだな」
そう返して、ゾロは再び目を閉じる。
サンジはもう一服すると、サイドボードにあったアッシュトレーを引き寄せ、底に吸い殻を押しつけた。
尻の奥にはまだ、むず痒いような感触が残っている。奥の方に溜まった残滓の始末をどうしようかと考えながらサンジは、ゾロの胸の傷に唇で触れた。
「なあ、チェックアウトまでまだ時間があるんだけどよ」
規則正しいゾロの心臓の音に耳を傾けながら、サンジは言った。汗が引いて少し寒く感じるサンジには、ゾロの体温が心地好い。あと少し汗をかいたら、二人でもう一眠りしよう。船に戻るまで、まだかなり時間に余裕がある。
小さく笑いながら二人は口づけを交わした。
心地よい目眩が、ゆっくりとサンジを包み込んでいった。
END
(H16.5.2)
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