『ひとつ、オトナに 2』



  ぐったりとしたサンジを腕に抱いて、ゾロは部屋に戻った。
  バスタオルで軽く拭いただけのサンジの身体はまだ少し湿っている。
  そっとベッドに横たえてからゾロは、指で軽くサンジの前髪をすいてやった。
「おい、しっかりしろ」
  やんわりと頬を叩くと、億劫そうにサンジが目を開けた。まだ意識がはっきりと戻っていないのか、焦点の合わない眼差しでぼんやりとゾロを見上げている。
「これしきのことで、のぼせたのか?」
  にやりと笑って、ゾロ。
  言われて初めてサンジは、自分が失神していたことに思い当たった。そういえば自分は、バスルームでゾロに抱かれたのだ──ナミとロビンの二人からもらった入浴剤の蒼い色が綺麗だと、抱かれながら思った。荒々しく跳ねる湯の音と、身体の中を駆け回った熱。腹の中に叩きつけられた迸りは、ゾロの精液だけではなかったはずだ。
  サンジは手を伸ばすと、ゾロの短い髪に触れた。
「てめっ、盛りすぎなんだよ、このクソマリモ」
  口元に淡い笑みを浮かべてさらりとサンジが言うと、ゾロはやけに神妙な顔をしてサンジを見つめた。
「誰かさんの誕生日だからな、特別にサービスしてやっただけだ」
  そう言って、サンジの鼻先に軽く唇で触れる。
  くすぐったいのか、照れ臭いのか、サンジはうひゃひゃ、と笑ってゾロの首にしがみついていった。



  ベッドの中でもう一度、二人は抱き合った。
  ホテルのベッドは清潔で柔らかくて、程良くスプリングが効いていた。
  船の中での情事とは違う、穏やかな時間がここにはある。人目を気にする必要もなければ、慌ただしく服を脱いで抱き合う必要もない。限られた時間ではあったが、この時間が続く限り、他のことは何も気にすることなく、ただ相手のことだけを見ていればいいのだ。
「ナミさんとロビンちゃんのおかげだな」
  ゾロの首にしがみついたサンジはそう言うと、緑色の短髪の中に指を差し込み、がしがしと掻き回す。
「あ? なにが?」
  と、ゾロ。
「いや、なんでもねぇ」
  サンジは嬉しそうにそう言うと、ゾロの腰に足を絡め、ぎゅっ、としがみついた。
  嬉しくて仕方がないといった穏やかな表情で、サンジはゾロにしがみついていく。繋がった部分から痺れのようなわずかな痛みと快感とが、じんわりと滲み出てくるような感じがする。
  ホテルに入る前に、サンジはメリー号の甲板で皆から前祝いをしてもらっていた。特にこれといってプレゼントをもらうでもなく──いや、女性陣二人からは入浴剤をもらったが──、自分で作ったケーキをこれまた自分で切り分けて、皆で食べた。しかしそれでも彼らの気遣いが、サンジは嬉しかった。一緒に祝ってくれる彼らの気持ちが、胸にあたたかかった。
  ──…それに。
  それに、今、自分の腕の中にはゾロがいる。



  押し上げられた太股が、胸につきそうなほど近い。
  サンジは目を細めると、ゾロを見遣った。
  琥珀の色をしたふたつの瞳。形のよい唇は肉付きは薄いが、時に獰猛な獣のように貪るような勢いでキスをすることがあるということをサンジは知っている。盛り上がり、なだらかな曲線を描く筋肉。袈裟懸けに残る、胸の大傷。ピストン運動を繰り返すゾロのこめかみを伝い、汗の滴がポタリ、ポタリとサンジの上に落ちてくる。
「──……ゾロ」
  囁くように、サンジは目の前の男の名を呼んだ。
  怖いぐらい真っ直ぐに、ゾロはサンジを見つめる。
  まるで射竦められてしまいそうな鋭い眼差しだ。
「ゾロ……」
  掠れた声で囁くと、サンジはゾロにしがみついた。
  全身でしっかりとしがみついていないと、意識がどこかへ飛んでしまいそうだ。
「く……っあ……!」
  後ろの穴が、ゾロを締め付ける。サンジの中に入り込んだ性器の形を内壁で感じ取る。もっと……もっと、強く突き上げてほしいとサンジは、尻の筋肉に力を込めた。
  擦れ合う肌と肌。湿った音。太股を伝う精液が、ベタベタとした不快感をサンジに与える。
  ゾロがひときわ強く突き上げた瞬間、サンジのペニスが大きく震えた。



「あ……」
  どこか残念そうに、サンジは息を吐き出した。互いの腹の間に挟まれたペニスが、見る見るうちに萎れていく。
「しつこすぎるんだよ、クソッ」
  そう言うとゾロの肩口に噛みつき、ギリギリと肉に歯を立てる。
「……悪い」
  荒い呼吸の合間にゾロはそう返すと、サンジに腰を打ち付けた。肩の痛みを気にするだけの余裕もなく、ゾロは一心不乱にピストン運動を続けている。
「あっ、あぁ……早く……」
  啜り泣くような声でサンジが懇願すると、ゾロはペニスを中から引きずり出し、サンジのものになすりつけてきた。
  二人の精液が、腹の間でにちゃにちゃと粘着質な音を立てている。陰毛や陰茎に新たな精液が伝い落ち、サンジの臍の窪みには精液溜まりができた。
  サンジはたった今、自分がつけたゾロの肩口の赤い痣に舌を這わせた。
  ちろちろと蛇の舌を思わせる動きで舐め回していると、再びゾロのものが中へと差し込まれた。硬く張ったペニスは、先程よりも心持ち大きくなっているような感じがする。続いて、腹の奥に熱く激しい滾りが叩きつけられた。結合部から、中に納まりきらなかったゾロの精液が溢れ出し、ちゅぷり、と恥ずかしい音を立てた。



  射精の余韻に浸ってのしかかってくるゾロを押しのける。
「ったく、ちったぁ遠慮しろ、このクソマリモ」
  そう言って至近距離で睨み付けると、ゾロの唇が歪んで微かに笑みを浮かべる。
  急速的に力を失っていくゾロのペニスが、サンジの中からするりと抜け出した。もっと身体の中にゾロを感じていたかったのにと、サンジは尻の筋肉をきゅっ、と締めた。
「なんだ、まだ欲しいのか?」
  悪戯っぽくゾロが訊ねる。
「ちげぇよ」
  チッ、と舌打ちをして、サンジは返した。
  本当は、最後の一滴まで搾り取ろうとしていたのだ。
  海に出ればまた、人目を気にする日々に戻らなければならない。航海中はほとんど抱き合うこともなく、その機会があったとしても、慌ただしくてゆったりとした気分を味わうことができない。
  今、ここで、身体の中にゾロの残滓を搾り取ることで、サンジもセックスの後の余韻に浸ろうとしていたのだ。
「そうじゃないけど……もっかいしようぜ、ゾロ」
  サンジが言った。
  ゾロはやっぱり、口の端をくいと引き上げて笑っただけだった。
「誕生日だもんな」






END
(H16.2.27)



ZS ROOM