『Wild Doll 2』
ずるり、とゾロの指が引き抜かれる。
背筋に走る排泄感に、サンジは思わず唇を噛み締めた。が、噛み締めた端から声が洩れてしまう。
「ぅ……くっ……あ、あ……」
自身の先走りの液がポタリ、ポタリ、とサンジの腹に落ちてくる。最初に射精したものは腹や胸のあたりで白く乾きはじめており、何とも言えない状態になっている。
ゾロの指に翻弄されながらもサンジは、頭の隅でぼんやりと思った──スマートじゃないな。
焦らすようにゆっくりと指を引き抜くと、ゾロはサンジの肩のあたりに腕をさしこみ、上体を起こしてやった。
「跨れ」
一言、そう告げると、サンジの尻を両手で支えてくる。
サンジはゆっくりと、腰を下ろした。
向かい合ってキスをした。
舌を絡めてキスをすると、唾液が互いの口の端からたらたらと零れだした。きつく舌を吸い上げ、歯の裏側をねっとりと舐め取る。そのうちにどちらが何をしているのかさえもわからなくなっていく。
ゾロの肩口にしっかりとしがみついて、サンジは腰を揺さぶる。
ゾロのペニスが奥のほうを突き上げる時にはゆっくりと、それから入り口近くを突き上げる時には素早く、サンジは腰を動かした。
目を閉じて、ゾロは快感に身を委ねている。
サンジは、男の自分が、同じ男のゾロを感じさせているのだと思うと、どこか誇らしいような嬉しいような気持ちになった。もちろんサンジ自身は女性ではなかったが、それでもゾロは、間違いなくサンジで感じている。
「は……っ……」
うっすらと唇を開けて、ゾロが深く息を吐き出す。その吐息の甘さに誘われて、サンジは夢見心地でキスをした。
身体の奥深くで、ゾロのペニスが脈打つ。
ドクン、ドクン、と胸の鼓動が聞こえてくるのは、これはいったい、どちらの心音なのだろうか。
そろそろと身体を動かしてサンジがゾロの上から降りると、後孔からゾロの放ったものがトロリと溢れ出てきた。
「あ……」
青臭いにおいが部屋には充満している。ブルッ、と小さく身体を震わせるとサンジは、ゾロの顔を覗き込んだ。
「満足しただろう?」
尋ねる声は、掠れてどことなく弱々しい。
「まるで底なしだな」
呆れたようにゾロが言うのに、サンジはにやりと笑って返した。
「てめぇみてぇな体力だけの筋肉馬鹿を相手にするんだ、これぐらいでちょうどいいんだよ」
軽く肩を竦めるその仕草ですら、何とはなしに億劫そうなサンジだったが、おもむろにサイドボードに手を伸ばすとシガーケースから煙草を取り出し、火をつけた。ふぅーっ、と一服すると、白い煙がふんわりと天井へと向けて吐き出される。
うつぶせになってサンジが煙草を燻らせていると、ゾロの手が、サンジの白い腰をつるりと撫でた。
「ん? ……におうか?」
サンジが尋ねると、ゾロは面倒くさそうにそうだな、と鼻をひくつかせる。
「におうな、少し」
「少し、な」
それなら構わないかとサンジは、指を軽くかけて引き寄せた灰皿の底に煙草の先をぎゅっ、と押しつけた。
心地よい怠さが身体を包んでいる。
それでもサンジはまだ、満足していなかった。
もしかしたら身体は満たされたのかもしれない。だが、心のほうは、まだ、足りない。そもそも男の自分が、同じ男のゾロに対してそんなことを思うのもおかしなことだと思うのだが、それでも求めてしまうのだから仕方がない。たとえ身体が満たされたとしても、心が満たされるまでは執拗に求めてしまう。
「なんだ、まだ得心がいかねぇ、って顔付きだな」
ちらりとサンジの顔を覗き込んで、ゾロが言った。
「気のせいだろ」
照れたような、何とも言えない笑みでサンジは返した。
まだ、満ち足りない。心の中ではもっと抱き合いたい、もっと愛し合いたいと思っている自分がいる。
へへっ、と決まり悪そうに小さく笑うとサンジは、ゾロの唇に軽く指先で触れた。
男であるゾロに対してこんな感情を持ってしまう自分は、いったい、どうしてしまったのだろうか。男の自分が、こんな……女性に対するのと同じような気持ちを抱いてしまうことがあるとは、思いもしなかったことだ。
ちらりと上目遣いにゾロを見ると、彼は口の端を歪めて笑っていた。
「もう一戦、ヤるか?」
全身で、ゾロのにおいと身体を感じた。
のしかかってくる身体の重みも、ポタリ、ポタリと落ちてくる汗の粒も、何もかもがサンジには愛しい。この男のすべてが自分のものなのだと思うと、それだけでサンジの全身には震えが走った。
身体の中を駆け巡る熱と痛みさえもが、快感となってサンジを翻弄している。
目の前が真っ白に焼き切れてしまいそうなほどの強い感覚に、サンジはひときわ艶やかな声をあげた。ゾロが驚いて腰の律動を弱めると、すぐにサンジの足が肉付きのよい腰に絡みつき、潤んだ瞳がゾロの顔を覗き込む。
「まだ……やめるな」
低く掠れた声はしかし、呆気なくゾロの口の中に飲み込まれてしまった。
「ぅ……ん、んっ……」
もどかしげにサンジは、ゾロの舌を吸い上げた。唾液を喉の奥に流し込み、口の内側の肉を削ぎ落とすかのように舐め取っていく。
「……ふ……ぁ……っ」
知らず知らずのうちにサンジの後孔が収縮し、飲み込んだゾロのペニスをきりきりと締め付けている。先ほどからゾロの下腹にあたっているサンジの竿は先走りの液でじっとりと濡れ、今にも爆ぜてしまいそうだ。ゾロの腹筋がサンジの竿や亀頭に触れるたびに、サンジのペニスはビクン、ビクン、と大きく震えた。
そのうちに腰を打ち付けてくるゾロの動きが、早くなった。
「出せ……全部、中に……出せっ」
サンジが言った瞬間、ゾロはペニスを引き抜いた。ズルズルと引きずり出される感触に、サンジの産毛が総毛立つ。
「ひっ……あ、あっ……ああぁ……」
首を左右に振り、サンジはその瞬間、自分の腹の奥の熱が出口を求めて一点へと収束していくのを感じた。
「……ん、んんっ」
二人の腹の間で放たれたサンジの精液が、肌にねっとりとまとわりつき、不快感を与えてくる。
ゾロはそのまま抜き出したペニスをサンジの竿になすりつけ、射精した。
サンジの腹の上に放たれたものが白い精液溜まりとなって脇腹をたらりと伝い零れ、ベッドに染みをつくっていく……。
荒い息のまま二人はベッドにごろりと転がり、身を離した。
シーツのそこここに汗と精液の染みができていたが、気にならないほど二人は疲れていた。
サンジは手を伸ばし、ゾロの肘に指をかけた。
「なんで、中に出さなかった?」
ふてくされたようにサンジが問う。
フン、と鼻を鳴らすとゾロは、サンジの手をそっと握りしめた。横向きになってサンジの顔をじっと見つめ、低く、呟いた。
「──まだ、もうしばらくこうしていたいだけだ」
END
(H16.7.9)
|