『シアワセ』
見張り台からの景色は濃い灰色がかった薄青で、水平線の向こうの雲の合間にちらちらと陽光が見え始めている。新しい年の始まりが、もう少しで見えてきそうだ。
少し肌寒い朝の風にサンジは小さく肩を震わせた。
「寒いか?」
掠れた声に尋ねかけられ、サンジは首を横に振る。金髪が、ゾロの目にはほんの少し眩しい。
「いや、違う……そうじゃなくてな……」
言いかけて、ふっ、とサンジの口元に淡い笑みが浮かんだ。
おもむろにサンジは手を伸ばし、自分の背丈と同じ背のゾロの首を引き寄せた。
「いつまでもずっとこんな風に、騒いで、喧嘩して、仲良くやっていきたいもんだな」
もらい火をする時のようにさり気ない様子で、そう口早に言うとさっとサンジは離れていく。触れ合った部分が仄かにあたたかで、手放したくなくて、ゾロは咄嗟にサンジの肩を引き寄せていた。
「──悪いが、そりゃ、出来ねえ約束だ」
そう返すと、ゾロはにやりと笑った。
この顔を間近で見ているだけで、サンジはなんだか胸の内が熱くなってくる。この男と共に走り、共に戦う力を自分も秘めているのだという事実に気付かされ、身体の芯から何かが込みあげてくるような感じになる。
「馴れ合いは苦手なんでな」
と、どこか照れたように言葉を締めくくると、ゾロはまた、前方を睨むように見た。
空の向こうで、朝日が昇ったようだ。
「ああ……」
サンジが、夢見心地に囁いた。
「ああ、そうだな」
溜息のようなやわらかな声だった。
ゾロには、その声が聞こえたのだろうか。不意に、くしゃくしゃの悪戯っ子の笑みをゾロは浮かべた。サンジの肩にもたれかかるようにして、その整った色白の顔をじっと覗き込む。
「格好つけすぎなんじゃないのか?」
からかうように節くれ立った指先で、つん、とサンジの頬をつついてみる。
「るせーっ」
むくれてみせるとゾロはますます喜んでヒヒヒ、と笑った。
しばらく二人でもぞもぞとやりとりをしているうちに、東の果てに太陽がのぼってきた。
「あ…──」
先に気付いたサンジが、ふと動きを止める。
銀色の太陽が、ゆっくり、ゆっくりと、空にのぼってくる。
一年でいちばん最初の朝を二人で迎えることが出来たことが嬉しくて、サンジはいつの間にか口元を緩めていた。
「HappyNewYear!」
ぽそりとゾロが、サンジに耳打ちをする。
夕べ、仲間たちと飲み明かした時から口にしていたし何度も聞かされた言葉だったが、改めて耳にするとまた違った感じがした。
それからついでに、ゾロはカプリとサンジの耳たぶを甘噛みした。
──今年もまた一年間、一緒にいられますように。
くすぐったさに首を傾けながら、サンジは胸の内でこっそりと願った。
END
(H16.12.31)
|