眠くなるまで 2

  チュ、チュ、と音を立てて、綱吉は指先にキスを繰り返す。獄寺がしてくれたように、自分も、獄寺の指先に唇を押しつけたかった。
  獄寺の指はすらりと長い。先端が楕円形になった爪は、短く丁寧に切りそろえられている。
「オレ、獄寺君の指、好きだよ」
  この長い指が自分の中に入ってきて、中をグチャグチャのドロドロに掻き回すのだ。そう考えただけで途端に体が熱くなったような気がして、綱吉はブルッと身震いをした。
  早く触れて欲しいと思う。
  獄寺の指で体中、触れて欲しい。この指が通ったあとは、全身が敏感になる。間近にかかる吐息にすら、快感を感じるようになる。獄寺の指は、魔法の指なのだ。
「……んっ」
  人差し指の先端を口に含むと、綱吉は丁寧に舌を這わせ始めた。
  クチュ、と湿った音がして、上目遣いに見上げると、獄寺が困ったように綱吉を見つめていた。
  眼差しだけで小さく笑ってみせると、綱吉はさらに深く指を口に招き入れ、舌を絡める。チュウ、と音を立てて吸い上げると、空いているほうの獄寺の手が綱吉の頬に触れてきた。
「そんなに必死にならなくても」
  言いながら獄寺は、綱吉の鼻先に唇をそっと押し当てる。
「だって」
  と、綱吉はくわえていた指を口から引き抜くと、獄寺の唇に素早くキスをした。
「獄寺君がソノ気になってくれないと、困るだろ?」
  悪戯っぽく笑いかけると、獄寺の視線が緩んだ。
  降参だというふうに綱吉の体をぎゅっと抱きしめた獄寺は、耳元に唇を寄せる。
「……十代目の、好きにしてください」
  掠れた声がエロティックで、綱吉の心臓がドクン、と鼓動をひとつ、立てた。



  ベッドの上でじゃれ合いながらキスを交わした。
  ほっそりとしてはいるものの筋肉のついた獄寺の胸をトン、と押すと、背中からベッドへと倒れ込んでいく。すかさず綱吉は獄寺の腹の上に座り込む。
「本当に好きにしていいの?」
  尋ねると、獄寺は少しだけ考えるふりをした。
「……構いません」
  やけに神妙な顔つきで告げる獄寺に、綱吉は笑みを返した。そんなに深刻に捕らえなくてもいいのにと、綱吉は思う。お互いに好き合っているのだから、抱き合って、相手を感じたいと思うことは悪いことではないだろう。だいたい獄寺は難しく考えすぎるのだ。コンドームがなければ触れようともしないだなんて、相手を馬鹿にしていると綱吉は思う。もちろん、お互いに気持ちを交わし合った仲だからこそコンドームの必要性を理解しているのだが、たまにはなにもつけていないナマの獄寺を感じたいと思うのはいけないことなのだろうか?
  獄寺の顔の横に両手をついて、綱吉はキスをした。唇を深く合わせ、唇の隙間に強引に舌先を潜り込ませた。そうしながら少しずつ、唾液を相手の口の中へと送り込む。
  ジュッ、と湿った音がして、顔を離すと獄寺の口の端から唾液が一筋、たらりとこぼれ落ちていくところだった。
「……おいしかった?」
  尋ねると、獄寺は「はい」と頷く。
  綱吉は満足感を覚えていた。肌に触れる獄寺の体温が心地よくて、気持ちいい。
  唾液に濡れる唇にキスをしてから、喉元、胸、みぞおち、臍と順にくちづけていく。白い腹が時折、ピクン、となるのが目に楽しい。腹の肉の軟らかいところ、陰毛の生え際にキスマークをつけた。顔のすぐ近くにある獄寺のペニスが、触れてもいないのに首をもたげ始めている。
  食べてしまいたいという誘惑が綱吉の中にふと込み上げてきた。性器の根本を片手で支えると、先端にパクリと食らいつく。
「十代目?」
  慌てて腰を引こうとする獄寺を視線で押し留め、綱吉はまだ柔らかな性器を口で扱きだした。



  歯をやんわりと立てて甘噛みすると、途端に獄寺の性器は硬さを増してくる。そのまま歯で竿の部分を扱きながら先端へと辿りつくと、今度は割れ目の部分を舌で執拗につついたり吸い上げたりした。音を立てて吸うと、そのたびに獄寺の腰がもぞもぞと揺れる。面白い。いつもは部下から怖がられている獄寺が、眉間に皺を寄せて綱吉の愛撫をじっと堪えている姿が愛しく思えてならない。
「ん、む……」
  硬くなってきた竿を喉の奥まで飲み込み、顔を上下に動かした。
  慣れるまではゆっくり、そのうち速度を上げてピストン運動を繰り返す。ちらと獄寺の顔を見ると、彼は気持ちよさそうに目を閉じている。
「んんっ……」
  もっと気持ちよくなって欲しいと思う。
  自分がいつもしてもらっているように、口の中におさめたものを丁寧に舐め回す。口を窄めてきゅっと吸い上げると、先端に苦いものがじわりじわりと滲んでくる。喉を鳴らして吸い上げた先走りを飲み込むと、えぐみのある青臭いにおいが口の中いっぱいに広がってくるような感じがする。
「ん、ぐ……ん、ん」
  喉の奥に獄寺の先端があたると苦しくて、目の端には涙が浮かんできた。咽せそうになるのを堪えて、それでも舌を這わせていると、頭を撫でられた。
「も、いいです、十代目。充分気持ちよかったっス」
  はあ、と息をつき、獄寺が掠れた声をかけてくる。
「でもっ……」
  言いかけたところでぐい、と肩を引かれた。
「あなたが辛そうに見えるのが嫌なんです」
  言いながら獄寺は、綱吉の体をぐい、と引き寄せる。白い太股に乗り上げるような格好のまま、綱吉は獄寺にしがみついていく。
「──…じゃ、いれて」
  耳元に囁きかけると、尻の下で獄寺の太股がピクン、と蠢いた。



  結局のところ自分は、獄寺に触れて欲しいのだ。
  男の熱が、欲しくて欲しくてたまらない。
  はあ、と溜息をついた綱吉は、一呼吸おいてから獄寺の首の後ろに腕を回した。膝立ちになってぎゅう、と男の頭を抱きしめると、こめかみに唇を寄せる。
「……触って?」
  ボソボソと声をかけると、獄寺の指がするりと綱吉の後ろに触れてきた。しばらく尻の狭間をさまよっていたかと思うと、探り当てた窪みにぐい、と指を突き入れられる。
「あ!」
  咄嗟に声が洩れた。きゅう、と尻の筋肉を締めつけたのは、わざとではない。どうしても力が入ってしまうのだ。
「痛くないっスか?」
  心配そうな獄寺の声に、綱吉は小さく頷く。
  痛くはなかった。それよりも、気持ちいい。指が内壁を押し広げようとする動きも、襞を伸ばして入り口を行き交うのも、気持ちよくてたまらない。中に潜り込んだ指を締めつけると、獄寺の指の形がはっきりとわかるような気になる。
「あ、あ……」
  上擦った声が綱吉の口から洩れ、腰が揺らいだ。
  獄寺の喉が上下して、唾を飲み込む様子が至近距離で綱吉の目に映る。愛しくなって獄寺の首筋に、キスをした。ワイシャツの襟から覗くか覗かないかのあたりに、わざとキスマークをつけた。この男は自分のものだ、誰にも渡さないぞと、こっそり自己主張をしてみせる。
「気持ちいいっスか?」
  獄寺の指がグチグチと後孔を攻める。奥深いところを抉るようにして引っ掻いたかと思うと、ズルズルと体の中から引きずり出される。排泄感にもにた感触に、綱吉はゾクリと背筋を震わせた。
「ん、ん……ぅ」
  ふと下半身へと視線をやると、いつの間にか勃ちあがっていた性器が、ふるりと震えて先走りを滲ませている。腰が揺れると先端が獄寺の腹にあたり、さらなる快感を呼び寄せているようだ。はしたないと思うと同時に、獄寺の腹に自分の性器をなすりつけることをやめられない。体が勝手に動いてしまうのだ。
「あ……入、れ……」
  言いかけて綱吉は、獄寺の腹に自分のペニスをぐい、と押しつけた。じわりと滲み出た先走りがニチャリと湿った音を立てる。
  早く、と綱吉は思った。早く入れて欲しい。獄寺のもので突き上げられたい。少しぐらい乱暴にされても構わない。どうせ獄寺のことだから、綱吉が痛くないようにと細心の注意を払うだろうから。
  腰を浮かせて待っていると、獄寺の手が、綱吉の尻を掴んだ。下へ引かれて腰をおろすと、尻にヌルリとした感触がした。後孔に獄寺のものがなすりつけられているのだと思うと、綱吉の腹の底が新たな熱を感じだす。
「は、やく……欲し……」
  うわごとのように口走りながら綱吉は、後ろ手に獄寺の性器を掴んだ。獄寺が止める間もなく、素早く腰をおろしていく。
  グチュ、グチュ、と湿った音を立てながら、綱吉は獄寺の性器を体の中に銜え込んでいく──



「十代目!」
  驚いたように獄寺が声をあげる。
  その声を無視すると綱吉は、自分から腰を動かし始めた。
  体の奥深く飲み込んだ竿を締めつけながら、ゆっくりと腰を上げる。そのまま腰をおろすと、グチ、と湿った音が響く。焦らすようになんどか上げ下ろしを繰り返してから、獄寺の目を覗き込む。淡い緑色の瞳が真っ直ぐに綱吉を見つめている。
「……気持ち、いい?」
  恐る恐る尋ねると、獄寺はコクコクと首を縦に振った。
「いい…です」
  その言葉だけで、嬉しくなる。獄寺が感じているのだと思うと、それだけで綱吉の腹の底へと熱が集まってくる。
  ペロリと自分の唇を湿らせてから、綱吉はキスをした。獄寺の唇にチュ、と吸いつき、下唇を舐めあげてやる。
「もっと」
  呟き、綱吉は獄寺の首にしがみついていく。
「もっと、キスが欲しい」
  腹の底の熱が、グルグルと回っている。出口を求めて、集まってきている。
  腰を捩り、獄寺のものを深く体の奥へと飲み込むと、密着したままで尻を小刻みに揺さぶった。クチクチと音がして、互いの肌がぶつかり合った。
  誘うように唇を開き、舌先を獄寺の唇へと突き出してみせる。
  もっと触れて欲しいのに、獄寺は遠慮がちに綱吉に唇を寄せるばかりだ。
「ん、ぅ……」
  キスを交わしながら、とうとう綱吉は自分の性器に手を滑らせていた。獄寺から触れてこないのなら、自分で好きなようにするまでだ。
  先走りでドロドロになった自身の性器を握りしめ、綱吉は手を大きく動かし始めた。



END
(2011.4.4)


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