「スパイ」

  目が覚めたGは、自分が見知らぬ部屋に閉じ込められていることに気付いた。
  仰向けに寝かされ、四肢は拘束されて簡素な寝台に繋がれている。
  着ていたものは剥ぎ取られ、何に使うのかおおよそ見当もつかないような器具が目の前にはところ狭しと並べられている。
「どういうことだ?」
  Gは口の中で低く呟いた。
  部屋の一角には大きなガラスが嵌め込まれており、あの向こうにはもしかしたら誰かいるのかもしれない。姿は見えないが、人の気配が感じられるような気がする。
  不意に、聞き慣れた声がした。
「目が覚めたか?」
  首を巡らすといつの間にいたのか、すぐそばにジョットの姿があった。
「G、君にスパイの嫌疑がかかっている。潔白を証明してもらいたい」
  無機質な冷たい声に、Gは目を眇める。
  自分がスパイなどではないことは、おそらくジョットにはわかっているだろう。恋人として何年も一緒に過ごしてきたのだ。その時間の濃密さを考えれば、スパイ嫌疑などと、軽々しく口にできるはずがない。
「お前がそう思うのなら、気のすむまで調べるがいい」
  鼻白んでGは返した。
  この先、自分がどんな目に遭うことになるのかを理解した上での言葉だった。



(2017.10.27)
(2018.1.16改稿)



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